就職活動の「制服」
就職活動の季節になった。最近、就職活動の服装について、ソニーの呼びかけが話題になっている。同社はホームページで学生たちにこう呼びかけた。
『面接にはスーツを着ていく。
メディアでは、常識的な“シューカツ”の服装とは何か、がとり挙げられる。
面接で自由な服装を呼びかけると、「これは罠だ」とつぶやかれる時代。
いまの均質な“シューカツ”。スーツはその象徴だと思うのです。
だから、ソニーは、採用イベントや面接に参加する際、自由な服装を呼びかけています。
応募者には、普段のままの自分の考えをリラックスして表現してほしい。
お互いに、“シューカツ”の固定観念を打ち破りませんか』
こう呼びかけたにもかかわらず、会社説明会ではスーツ姿の学生が大半だったとの新聞報道があった。
こうした状況はソニーだけの話ではないようだ。知り合いの女子学生が、つい最近、アパレルメーカーの会社説明会に行ったときの話をしてくれた。「服装は自由」とあったので、その通りにしていったところ、会場でスーツを着ていなかったのは彼女ひとりだけ。アパレルメーカーにもかかわらず、だ。彼女は不安を感じたという。
かつては就職活動用の服にももう少し幅があったように記憶している。それが今では女性用のスーツは黒。ブラウスは白。バッグはA4の書類が入る四角いデザインで、靴は黒いパンプス。そのほかにも業界によってはブラウスの一番上のボタンを留めるとか、パンツスーツはだめなどという「風評」が広がっているらしい。メークや髪形まで誰が決めたかわからない「指定」があるようだが、均質性が増幅しているようにしか思えない。
先日、ある外国人から「日本の若者のファッションはとても個性的で魅力もあるのに、就職活動となるとどうしてあんなに個性を抑え、制服のようなスーツを着るのか」と尋ねられ、言葉に窮した。
大学生の就職率が低迷する今、下手に自由な服装をして個性を表現し、内定がもらえなかったなんてことになりたくないというのが、学生たちの率直な思いなのだろう。守りに入る学生たち。でも、そうさせている原因は、もっと深いところにある気がする。日本社会の閉塞感はこんなところにも感じられる。
よく「服は人を表す」というが、服は国をも表しているのかもしれない。
※2月中旬から始まるコレクション取材のため、このコラムは当分の間、お休みします。3月下旬ごろ再開の予定です。
宮智 泉(みやち・いずみ)さん
読売新聞東京本社編集委員
東京生まれ。国際基督教大学卒業。1985年、読売新聞社に入社。水戸支局、地方部をへて、生活情報部。2009年1〜5月、カリフォルニア大学バークレー校ジャーナリズム大学院の講師を務める。同年6月より編集委員。ファッションやライフスタイル、働く女性の問題などを担当。
- 就職活動の「制服」 (2012年2月2日)
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