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米雇用情勢に明るい兆し

1 概況:狭いレンジでの推移が続いたが、週末の米雇用統計を受け上昇

 先週のドル円相場は、76円台前半を中心に神経質に推移する展開が続いたが、週末の米雇用統計が市場予想を上回ると76円台後半まで上昇し越週した。

 先週のドル円相場は76.70円レベルでオープン。ギリシャ債務の民間債権者負担(PSI)交渉は依然として合意にいたらない中、リスク回避優勢となり30日の海外市場でドル円は76円台前半まで下落。

 月末31日には安住財務相から円高をけん制する発言が出るも、国内輸出勢のドル売りフローもあり東京時間に76.18円と昨年10月末の為替介入時以来の安値を更新、その後は欧州債務懸念からユーロドルが下落する動きにドル円はやや値を戻す展開。

 1日にはギリシャ債務PSI交渉合意への期待からユーロが対ドルで買い戻されドル円も76.03円と週安値を付けるが、米金利が上昇する流れにじりじりと76.35円まで上昇。

 2日には中国が欧州金融安定基金(EFSF)への関与拡大を検討との報道を受けたユーロドルの上昇や、バーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長の議会証言で米経済に対する慎重姿勢が改めて示されたこと等からドル円は上値重く推移するが、ギリシャ債務PSI交渉進展の噂もあり76円台前半で揉み合う時間帯が続いた。

 3日に発表された1月米雇用統計では事前予想とは裏腹に強めの結果となるとドル円も76円台後半まで急伸、さらに1月ISM非製造業景況指数も市場予想を上回ると76.74円まで上昇、結局78円台半ばでの越週となった。

2 見通し:米経済に対する過度な悲観論は後退するか

 今週のドル円相場は底堅く推移する展開を予想する。ドル円は先週76円台割れを試す場面が見られたが、このレベルでは政府・日銀による為替介入に対する警戒感も高く、一方的に円高が進行する展開は想定しがたい。

 欧州ではギリシャ債務PSI交渉を巡り情報が錯綜している状況で、引き続き交渉の進展に関する報道を受けたユーロドルの不安定な動きにドル円も振らされる場面がありそうだ。

 一方、先週末に発表された米雇用統計の結果は良好で、2か月連続で非農業部門雇用者数が20万人を超える増加となる等、米景気の底堅さを確認できる内容となっている。

 1月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で異例の低金利政策の時間軸が長期化されたことや燻り続ける量的緩和第3弾(QE3)への思惑を背景にドル安が進行しやすい地合いであったが、リスク志向が高まりQE3期待が剥落すれば米金利は上昇に転じ、ドル円も連れて上昇する展開となろう。

 今週は9日に欧州中央銀行(ECB)理事会が予定されているほか、10日に12月の米貿易収支、2月のミシガン大学消費者信頼感指数が発表となる。

3 ズバリ:今週の予想レンジ

予想レンジ
76.00〜78.50円

日本が31年ぶりの貿易赤字に転落

 財務省が今年1月25日に発表した貿易収支(2011年暦年、通関ベース)は約▲2.5兆円と31年ぶりの赤字となった。自動車や電子部品等の輸出が減少し、原油や液化天然ガス等の輸入が増加したことが主な要因である。今回の貿易赤字については、東日本大震災を受けたサプライチェーン寸断により国内製造業が停滞したことに加え、原発停止により代替燃料の輸入が増加したこと等が背景であるが、今後の為替相場を展望するうえで重要な意味を持つと思われる。

 日本ではこれまで貿易黒字が定着しており、国内輸出企業による円買いが為替相場に対しては円高要因として働いてきた。市場では輸出企業の動向が注目され、ドル円相場の上値には輸出企業のドル売り円買いのオーダーが控えていることから、円安に振れる局面でもドル円相場の上値は重くなりやすい。今後、貿易赤字が定着するようであれば、こうしたフロー面での円高圧力が緩和されることになる。ただし、日本は世界最大の対外純資産保有国であり、所得収支黒字で貿易赤字をカバーできるため経常黒字は維持されることから、足許急速に円安が進行する可能性も低いだろう。

 今回の貿易赤字については、東日本大震災やタイでの洪水被害等の影響による一時的なものとの見方もある。しかしながら、昨今の円高を受け、国内製造業はその生産拠点の海外シフトを加速せざるを得ない状況である。また、イランやシリアといった中東情勢も緊迫した状況が続いており、原油相場が上昇すれば燃料コストが予想以上に高止まりする可能性もある。

 やや悲観的すぎるかもしれないが、輸出大国としての日本が岐路に立たされているようにも思われ、今年の国内貿易収支の動向、およびその中長期的な為替相場への影響はこれまで以上に注視したいところである。

 ※ドル円相場は、みずほコーポレート銀行の取引によるものです。

プロフィール
林 宏行  (はやし・ひろゆき)
みずほコーポレート銀行 国際為替部


みずほコーポレート銀行国際為替部の為替ディーラーが執筆を担当します。(「先週」「今週」などの表記は、執筆日を基準にしています)
2012年2月6日  読売新聞)

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