震災から1年、変化した消費行動2011年(平成23年)3.11東日本大震災から早1年、消費行動に変化がみられる。2012年の百貨店の初売りは全国的に好調だった。とりわけ東北は仙台の百貨店売上に顕著にでている。しかしながら、これまでの初売りとは一線を画する内容のようだ。高級コート、宝飾品といった贅沢品ではなく、価格帯で言えば、必需品との中間に位置する、ちょっと良いもの、あるいはちょっと贅沢な品物が売れた。家族、友人のための「きずな消費」とも言えるし、「心機一転」消費とも言えるかもしれない。投資テーマとして、改めて考えてみた。 震災後の消費者は、気分一新、きずな、安全安心を志向震災後の昨年7月頃に、生活様式や暮らし方を提案する、セレクトショップのトップ企業である、ユナイテッドアローズ仙台支店の販売好調について、経営トップは「洋服購入時に感じる高揚感が、動機になっているのではないか」と背景を説明していたが、「心機一転」消費の初期段階を語っていたものと思う。それに加えて最新の景気調査で「きずな消費」と見られる消費行動が報告されている。「(百貨店の)初売りは好調だった。復興需要が持続している。震災の影響であろうが、例年よりも三世代の家族連れが目立った」(東北地方百貨店) や「寒い日が続き、衣料品の動きが良い一方、お歳暮ギフトが前年を上回っている」(南関東百貨店)などが消費行動変化の例であろう。 震災前と後で、なにが変わったのか。生活者がどの領域のどの行動に力を入れたかを男女別に調査したのが、図表1である。 図表1 震災前後の男女別「行動」変化 (注)緑色の網掛けは男性だけが前年比3.0%ポイント以上増加したもの (出所)博報堂「スケール・ジャパン」調査を基に、いちよし経済研究所作成。 男女とも震災前に比べて、震災後の行動で最も増加したのは、「社会貢献行動」(男性19.7%ポイント上昇、女性34.5%ポイント上昇)である。次に「マスメディアでの情報入手」「環境保護行動」「家族との交流」ひとつ措いて「贈答」が続く。震災によって社会とのつながりや家族の大切さを実感するとともに、環境意識も高めている。 また、「ネットでの情報受信」行動の上昇はスマートフォンやタブレット型情報端末の普及促進を裏付けている。震災直後は携帯電話が繋がらず、家族や知人の安否確認に手間と時間をかなり要したのは記憶に新しい。災害に備えるだけではなく、非常時にも安定した情報通信を求める意識はかなり高まった。 調査23項目のうち前年に比べて、3%ポイント以上増加した行動は、男性が17項目に対して、女性は10項目にとどまった。男女が共にもっとも重視した1位は「社会貢献活動」(女性の意識の向上は男性をはるかに凌ぐが…)だ。一方、男性だけが3%ポイント以上増加した行動に限ってみると、「友人・恋人との交流」「エンタメ・コンテンツ鑑賞・閲覧」「ネットでの情報発信」「買い物」「食事・飲酒」「ファッション・身だしなみ」など私生活を大事にするというか、自分の身の回りに関するものが目立った。仕事中心から自分と家族、地域社会や環境保護などへの意識の広がりが見られるのである。今後は私的な時間、生活を充実させる方面への消費支出の増加が予測されよう。 また、現在は落ち着きを取り戻しているが、東京電力・福島第一原子力発電所の事故処理は長期化する見通しにあり、放射能汚染被害に対するリスクは軽減していないようだ。買い物する時に、生鮮食品の産地や、放射能に汚染されていないかどうかを確認する消費者は少なくない。消費動向調査によれば、震災後は震災前に比べると、安全志向が跳ね上がり、価格などの経済志向がやや低下した。もちろん価格は重視せざるをえないが、高価であっても安全安心を確保するためには、割高でも購入する傾向は強まると思われる。 震災直後の通信状態の記憶がスマートフォンの普及を早めた。2011年度にスマートフォンの所有者は5人に1人になった。(携帯電話契約者1億2000万台の20%)、12年度は3人に1人が、14年度は2人に1人が見込まれている。 混乱したのはもちろん、通信だけではない。電力不足によって交通機関や商業施設の営業時間も物流も混迷をきわめ、食品や生活必需品の品不足を経験した。ネット通販各社は震災の影響を受けたものの、それまでネット通販の利用に消極的だった層にその利便性を知らしめ、利用層を拡大した。 例えば、国内最大のアパレル販売専用サイト「ZOZOTOWN」を運営するスタートトゥデイである。既に高い認知度を有しているが、利用は単身世帯からファミリー世帯に広がりをみせている。忙しいファミリー世帯にとっては、時間を有効に活用できるネットショッピングは、頼りがいのある「買い物ツール」である。利用頻度の高まりが期待される。「ZOZOTOWN」の登録会員数は2011年3月末に313.3万人だったが、2012年3月末には5割増の470万人が見込まれている。アクティブ率(登録会員数に占める、過去1年間に購入実績のある会員数の比率)は38.8%から41.5%に高まる見通しにある。 図表2.インターネットで買い物をしている世帯のネット経由の月間支出額 (出所)総務省「家計消費状況調査」を基に、いちよし経済研究所作成 消費タイプ別の関連会社一覧<こだわり消費> 鈴木東陽(すずき・とうよう) 日本証券アナリスト協会検定会員。証券専門紙や経済誌、三洋経済研究所、いちよし経済研究所などを経て、現在、いちよし証券シニアアナリストとして、投資セミナーや経済講演などに従事。 (2012年2月8日 読売新聞)
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