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投資信託

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運用開始年別に純資産残高を比較

 「1年間継続して資金純増の人気ファンド」のランキングを、毎月1回恒例でしつこく掲載していることには理由があります。「これが人気の売れ筋ファンド」だと、読者に保有を勧める目的でランキングをしているわけではありません。投資信託という金融商品の多くが宿命的に背負っている「短命」な定めを知っていただきたいからです。

 3000本以上もある追加型株式投資信託の中で、30億円以上の純資産を保ち、12か月間売れ続けるものが、たとえば前回の2011年12月末での集計では、わずか50本しかありませんでした。つまり、投資信託は「長期投資」に適した運用の道具だと言われ、投資家にも「長期投資」を勧めながら販売されているのに、ひとつひとつの投資信託(ファンド)は「短命」なものが多いのです。

 今回は、投資信託が生まれて運用を開始した年(設定年)別に、2012年1月末の純資産残高でランキングを行ないました。熟年投信がどのくらい生き残り頑張っているのか、見てみましょう。同時に、新たな購入資金が入ってきているかどうかを、2011年1年間の資金増減(各月の設定額から解約額を差し引いた純流入額の1年間の合計)で検証し、運用されている投資信託の本数も参考として掲載しました。




豪ドル債の2003年、通貨選択型の2009年

 トップ5はすべて2000年代で、2003年の7兆6249億円がトップでした。この年にスタートした投資信託で1月末に運用されているものは128本ありましたが、そのうち22本が純資産500億円以上の投資信託です。中でも「短期豪ドル債オープン(毎月分配型)」(大和住銀投信投資顧問)と「ハイグレード・オセアニア・ボンド・オープン(毎月分配方)《杏の実》」(大和投信)は全投資信託の中で純資産第2位と3位で、1月末の純資産はそれぞれ1兆233億円、9385億円でした。

 2位の2009年は近い過去でもあり、ファンドの本数では2011年の428本に次いで第2位の406本が運用されています。純資産500億円以上のものが25本ありましたが、そのうち21本が「通貨選択型」の投資信託です。新興国債券やハイイールド(高利回り・低格付け)債券、社会基盤整備関連の債券などに投資をしながら、ブラジルレアルやオーストラリアドルで運用する、ハイリスク・ハイリターンな毎月決算型のものがほとんどです。

 なおTop5の表で、Top5と全体を比較した「占有率」の欄で、資金増減が100%以上になるのは、Top5では資金流入が多いのですがそれ以外の年ではマイナスがあるためです。

リートの2004年、複数通貨選択型の2010年

 3位の2004年は115本ありました。そのうち17本が純資産500億円以上ですが、不動産投資信託(REIT、リート)に投資するものが10本で、この年は「リートの年」と言えるかもしれません。ほかに、ハイイールド債券に投資する投資信託が3本、インドの株式に投資するものが2本ありました。ITバブル崩壊の傷が癒え、不動産や新興国への投資が盛んになってきた頃に生まれた投資信託です。

 4位は2010年で、運用されている投資信託は383本、純資産500億円以上のものは16本ありました。そのうち14本が「通貨選択型」で、さらにそのうち9本はブラジルレアルのコースです。この年に生まれた通貨選択型で注目されるのは、この14本の中にも4本含まれていますが、資源国通貨やアジア通貨、新興国通貨など、1つの国の通貨ではなく複数の通貨で運用するものが増えたことです。

スタート時の「流行」で作られる投資信託

 運用中の投資信託がスタートした34の年のランキングの中で、投資信託が50本以上のこっているのは半数に満たない14の年です。そして2011年1年間に流出する資金より購入される資金が多かった資金純増の年は、2012年1月を除くと5つの年だけでした。純資産第5位の2005年でも、資金は1兆円以上流出の方が多かったのです。

 また、先に見たように、投資信託の商品性には「流行」があるようです。ある年には類似の投資信託が多数作られて注目されますが、そのうちの一部が何年か後まで大きな純資産を保つ一方、他の大多数の投資信託は資金流出の方が多く、年が経つに連れて「流行おくれ」な商品として販売の一線で見かけなくなり、やがてやせ細ってしまいます。投資するテーマが「流行おくれ」になるわけではなくても、投資信託そのものの純資産が減って、販売の現場で忘れられてしまうのです。

 グラフでも一目瞭然ですが、毎年300本以上の投資信託が生まれているのに、10年以上前に生まれた投資信託で生き残っているものの数は極端に少なく、残高もほとんどありません。また、2005年から7年にかけては、特に資金流出が目立ちます。スタートから5、6年で多くの投資信託の激痩せ減少が重症になるわけです。

 ところで1997年と1998年は例外的に残高が多いように見えますが、これは97年には「グローバル・ソブリン・オープン」(国際投信投資顧問)が、98年には「フィデリティ・USハイ・イールド・ファンド」「フィデリティ・日本成長株・ファンド」(フィデリティ投信)、「ニッセイ/パトナム・インカム・オープン」(ニッセイアセット)、「日経225ノーロードオープン」(DIAMアセット)などがあるからです。

「有期限」投信は業界の「小規模投信対策」

 1998年12月から、投資信託は従来の証券会社だけではなく銀行などでも販売されるようになりました。その影響で、ひとつの投資信託が比較的長く定番商品として販売される傾向が出てきたことは、投信の長命化につながると考えられてきました。しかし、銀行が投資信託の販売に慣れ、市場がリーマンショックなどの荒波にもまれた結果、最近では銀行だから同じ投資信託を長期で販売するというわけではなくなってきました。証券会社か銀行かにかかわらず、投資信託を定番商品として取り扱うか、流行商品として営業するかは、個々の金融機関の経営戦略によって異なるようです。その結果、一時は「無期限」の追加型投資信託が多かったのですが、小さくなったら償還しやすいように5年などの「有期限」の投資信託が増加しています。小規模の投資信託を多数抱えることは、販売会社にとっても運用会社にとってもコストが嵩むマイナス要素だからです。

 「長期で資産を増やす」ためには、運用途中で資金が入って来ずに先細りになってしまう当投資信託を選ばないためにも、流行に左右されずに
長期で資金が流入し続ける投資信託を選ぶことが大切です。

(イボットソン・アソシエイツ・ジャパン(株) 月刊「投資信託事情」編集長 島田知保)

2012年2月9日  読売新聞)

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