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「Pina」監督 ヴィム・ヴェンダース

「ピナのダンス」3Dで体感

「デジタル3Dは、新しい映画言語。アクション大作などでは新しいアトラクションのような使い方をされることが多いが、もっと多くの可能性を秘めている」=片岡航希撮影

 2009年に死去したダンサーで振付家のピナ・バウシュ。彼女の作品世界をデジタル3D映像でとらえた「Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち」が、25日公開される。

 ヴィム・ヴェンダース監督は、「観客は、ダンサーと共にいる感覚を味わうことができるはずだ」と語る。

 ピナ・バウシュは、ドイツのヴッパタール舞踊団を率いて、ダンスと演劇の境界を自由に行き来しながら、人間の生身の肉体と感情で舞台芸術の可能性を押し広げた。

 「ピナはダンスに完全なる革命を起こした」とヴェンダース。「その作品をよく言い表す彼女自身の言葉がある。それは、『私が興味を抱いているのは、ダンサーがどう動くかではなく、何がダンサーを動かすか』。彼女は、ダンスという世界共通言語を通じて、人間の感情や人生について語ろうとしていた」

 1985年にヴェンダースが初めてバウシュの舞台を見たのを機に、2人のドイツ人アーティストは親交を深め、共同で映画を作ろうと計画する。だが、彼女の作品世界にふさわしい映像スタイルが見つからないまま、長い時が過ぎた。

 「常に考えていたのだけれど、作品とカメラの間の見えない垣根が壊せない気がした。それは、水族館で水槽をのぞきこんでいるような感覚。よく見えるけれど、水中には入れない」

ピナ・バウシュの作品世界を3Dで見せる

 だが、2007年にデジタル3D映画「U2 3D」を見て、「やっとピナの世界の中に入っていく道具が見つかったと思った」。撮影にはクレーンを活用。踊るダンサーたちの中にカメラは入り込む。「この映画で、観客たちはダンサーたちの質量をも体感できる」

 撮影開始前にバウシュががんで急逝したため、いったん制作を断念したが、1か月後に再始動した。バウシュが生前、撮影されることを望んでいた4作品は少なくとも映画化すべきだと考えたからだ。

 「ただ、全体の構成は、構想と随分異なるものになった」。当初はバウシュの作品作りの過程を追うはずだったからだ。「ピナはいない。でも、ピナのための映画であることに変わりない。彼女の宇宙を俯瞰(ふかん)しているんだ」

 「パリ、テキサス」「ベルリン・天使の詩」などの劇映画で世界の観客を魅了する一方、ドキュメンタリーも制作。小津安二郎監督への敬愛から生まれた「東京画」、キューバ音楽の魅力をとらえた「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」など題材は多岐にわたる。

 「私のドキュメンタリーは、自分が心から好きだと思うものを世界の人々と共有したいという思いから生まれている。今回の『Pina』もそうだ」(恩田泰子)

2012年2月10日  読売新聞)

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