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Vol.380 新型スバル・インプレッサ

環境変化に対応 早めのモデルチェンジ

新型インプレッサ1.6i-Lの「スポーツ」はハッチバック車をさす。セダンは、4Gと呼ばれる
燃費を改善した1600cc水平対向エンジン。試乗した5速マニュアルシフト車の燃費は15.6km/L(JC08モード)
身長167cmの筆者の身長に合わせた前席位置で、後席足元にはこれだけのゆとりがある
1600ccエンジンの4輪駆動車にのみ設定された5速マニュアルシフト車の運転席。クラッチ操作も軽く運転しやすい
新型インプレッサの特徴の一つが、この三角窓とドアミラーの取り付け位置で、これによって斜め前方視界がとてもよくなっている
2.0i 4Gのトランクは奥行きもたっぷりある。また、後席背もたれは4:6の左右に分割で前方へ倒すことができる
本革シートのブラックレザーセレクションという注文装備には、前席にシートヒーターが付く。標準シートでも欲しい装備だ

 スバル・インプレッサは世界ラリー選手権を制覇することを視野に、1992年に生まれた小型車といえる。実際、3回のメーカーチャンピオンとドライバーチャンピオンを90年代半ばから2000年代序盤にかけて獲得した。

 その4代目が新型インプレッサである。新型を一言でいえば、これまで格上のレガシィに乗ってきた人も納得できるクルマといえるだろう。

 インプレッサは日本車の中では、モデルチェンジの間隔が7〜8年と長い車種だった。しかし、3代目から今回の新型までの開発期間はわずか4年。インプレッサとしては早めのモデルチェンジとなったわけを、開発責任者は、「クルマを取り巻く環境の大きな変化による」と説明した。

 新型インプレッサの車体は、車高を除き前型と寸法が変わっていない。それでも前型ですでに車体は3ナンバー車格となっていて、日本国内で扱いやすい大きさの限度に近づいていた。

 新型は、車体の前後左右が前型と同じでありながら、室内は広がっている。これは、フロントウインドーを前方へさらに傾斜させたことと、前後のタイヤ間の距離(ホイールベース)を延ばして、後席の足元を広げたことによる。

 室内に座ってみると、さっそくその広さを実感する。ものすごく広いというのではないが、居心地のちょうどよい空間を感じるのだ。また、フロントウインドーが前方へ傾斜を強めたのにあわせ、サイドウインドーに三角窓が設けられ、ドアミラーがフロントドアに直付けとなった。この手法を取り入れたことにより、運転席からの斜め前方の視界が広がり、安全確認がしやすく、運転する際の気持ちが楽になる。

 新型インプレッサのエンジンは、1年前の秋に一新された1600ccと2000ccの水平対向エンジンで、燃費が改善されている。組み合わされるトランスミッションは、スバル独自開発のチェーン式CVTで、スバルはこれを「リニアトロニック」と呼ぶ。このCVTは先にレガシィで採用されているが、新型インプレッサには別途、専用開発され、レガシィのCVTに比べ重量が15kg軽く仕上がっている。CVTを採用することにより、エンジンをできるだけ低回転で利用することに加え、軽量化によって、さらに燃費向上に寄与することになる。

身近に感じる1.6i-L 大人の風合いの2.0i

 さて、今回試乗したのは、1600ccエンジンにのみ設定された5速マニュアルシフトの組み合わせとなるハッチバック車の1.6i-Lスポーツと、2000ccエンジンにCVTのリニアトロニックを組み合わせた4ドアセダンの2.0i G4だ。1.6i-Lは4輪駆動だが、2.0iは前輪駆動である。

 結論としてまずいえるのは、これまでレガシィに乗ってきた人にも満足できるであろう、上質なクルマに仕上がっていることだ。車体の大きさも国内に適しており、アメリカ市場を視野にレガシィが大きくなった今、スバルでもっとも身近に感じられるクルマといえるだろう。さらに、エンジン排気量の小さな1600ccエンジンで、走行性能は満たされていると思った。

 1.6i-Lのトランスミッションが、自分で加速を加減できる5速マニュアルシフトであったとはいえ、市街地の走りはもちろん、高速道路でも、1600ccエンジンで何ら不足を覚えなかった。

 走行中の室内の静粛性にも優れ、かえってタイヤのロードノイズが気になるほどだった。サイドウインドーに設けられた三角窓と、フロントウインドーを支える支柱のピラーとの関係も適切で、右左折の際の死角が少ないことが、運転の際の安心材料となる。

 2.0iは、エンジン排気量が大きくなるだけに、走行中の力のゆとりを実感した。高速道路での長距離移動を頻繁に行うドライバーには向いていると思うが、新型インプレッサのジャストサイズは1.6の方だという思いは変わらない。

 2.0iは4ドアセダンで、そうした室内空間の落ち着きが好ましかった。荷室と室内がつながったハッチバックより、セダンでは大人の風合いというものが伝わってくる。トランクは奥行きが深くてたっぷりとした容量があり、通常の使い方であれば、ハッチバックや、他のステーションワゴンなどを選ぶ必要はないと思わせる。

 リニアトロニック車には、アイドリングストップ機構が備わる。なぜ5速マニュアルシフト車につかないのかわからないが、いまやアイドリングストップは常識的な装備であり、その作動は、発進で出遅れることなく何ら問題ないものであった。

力のこもった開発成果を実感

 スバルの目玉の一つが、運転支援機能のEye Sight(アイサイト)だ。車両価格にプラス10万円ほどで装備できるこの装置は、緊急時に、障害物だけでなく人にも反応し、急制動し、30km/h以内の速度差であれば衝突を避けることができる。テレビコマーシャルなどの効果もあって受注率が高いが、新型インプレッサの場合は2000ccエンジン車にしか装着できないのが残念だ。

 新型インプレッサは、想像以上の期待に応えてくれるクルマだと思う。1600ccエンジン車のちょうどよいという心地よさが印象的だ。また、近年なかなか手に入れにくいマニュアルシフト車も、1600ccエンジンの4輪駆動車のみだが設定されている。国内でのスバル復権をかけた力のこもった開発成果を実感させるクルマである。

プロフィール

御堀直嗣  みほり・なおつぐ
 1955年 東京都生まれ 。玉川大工学部卒。大学卒業後はレースでも活躍し、その後フリーのモータージャーナリストに。現在、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員等を務める。EV等にも詳しい。 スキューバダイビングや乗馬を楽しむアクティブ派でもある。
2012年1月17日  読売新聞)
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