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「生きてるものはいないのか」監督 石井岳龍

不条理でも死の前では平等

 石井岳龍(がくりゅう)監督=写真=の「生きてるものはいないのか」が、18日から公開される。

 「狂い咲きサンダーロード」「爆裂都市 BURST CITY」で知られる石井聰亙(そうご)が、名前を改めて撮った作品。岸田戯曲賞を受賞した前田司郎の同名戯曲の映画化だ。

 ある大学のそこかしこで、たわいない雑談、三角関係、友情のしがらみなど、よくあるドラマが繰り広げられる。が、そのありふれた日常は、突然、ぷつりと終わる。登場人物が次々と死に始めるのだ。

 「原作の戯曲は、生と死の残酷なまでの本質を、非常に現代的な軽い会話と空気感の中にぶつけている。その両極端が面白かった」と石井監督。

 2000年の「五条霊戦記//GOJOE」以来の長編映画。その間、中編作品などを手がける一方で、神戸芸術工科大学映像表現学科教授として学生たちを教えてきた。

 「若い子たちの会話や人生観に違和感を感じていたのですが、この戯曲を通して見えてきたこともありました。誰にも平等に訪れる死というものを前にすると、そこには何の違いもない。不条理ですが、それこそが真実。見終わった後に完全に世界が違って見えるような映画を作りたい、見ていただきたい、と思った」

 これまで社会からはみ出してしまう人物を描くことが多かったが、今回は個々の世界に閉じこもる人々。「ダメなヤツの方が感情移入できる。今回の登場人物たちも、そのダメさがいとおしい。ダメなヤツが頑張るのが映画だと思うし、映画の意味があるとしたらそういうことだろうと思う」

 学生たちと共同作業し、今の人間たちをみずみずしく描き出した。

 「自分の嗜好(しこう)や大事にしているものは、意識しなくても出てしまうものですが、極力捨てるつもりで新しいことにチャレンジしないとさびつく。名前を変えたのも、そういう意識が強くあったから。こだわりや執着を捨てたんですね。しなやかな強さみたいなことって大事だと思っています」

2012年2月10日  読売新聞)

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