「ポエトリー アグネスの詩(うた)」(韓国)
「真の美」求めて魂の旅
洋服の趣味も立ち居振る舞いもかわいらしいおばあさん。それが、本作の主人公、66歳のミジャ(ユン・ジョンヒ=写真)。彼女はきれいなものが好きだ。
ただ、その日常は甘くない。生活のために介護ヘルパーとして働き、中学3年生の孫を育てている上、認知症の初期症状も出始めた。医師に精密検査を勧められた日、ミジャは詩作教室に通おうと決め、学び始める。が、ほどなく彼女は恐ろしい現実に直面する。自殺した女子中学生に、孫とその友人たちが性的暴行を加えていたと知るのだ。
ミジャは多分、きれいなもので心慰めて生きてきた。詩に期待したのも美しい世界だったはず。だが、書けない。孫の罪はあまりに重く目をそらせない。「人生で一番大事なのは見ること」。詩の講師の言葉通り、彼女は懸命に現実を見つめる。詩作のため、少女のため、苦しみを引き受ける。
うわべの美ではなく、心に響く真の美に到達するためのミジャの魂の旅。見ていて心が痛む瞬間もある。けれども、最後まで表層的な人生と、真実を見て死ぬのと、一体どちらが幸せだろうか。そして、イ・チャンドン監督は、ミジャの物語を通して、もう一つの問いを投げかけている気もする。心地よいだけの映画と、真の美に出会える映画、どちらが良いかと。
突きつけられた問いの重さ、そして、ユンの演技は、見る者の心をつかんで離さない。小さくか細いが、実は痛みに耐える強さと賢さを持つ。その姿に、自分の母親や、敬愛する誰かを思う人も少なくないだろう。2時間19分。銀座テアトルシネマなど。(恩田泰子)
(2012年2月10日 読売新聞)
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