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SAKEツアーのススメ

松の寿

 こんにちは。そして遅ればせながらあけましておめでとうございます。昨年は私の日本酒コラムをご愛読頂き誠にありがとうございます。酒販店の社長、海外最大規模の日本酒コンクール(IWC London)の議長、そして同日同会場で行われるサケ・マスター・クラスと称する講演会講師等のコンサルタントとしての仕事等の経験を通したグローバル・マーケットの視野での日本酒について、このコラムでは今年もまずは楽しく、そして美味しく皆様に伝えて行けたらと思っております。今年もよろしくお願いいたします。

 さて、今回はツーリズムに関するお話です。昨年のこのヨミウリ・オンラインのワインのコラムで、ワイン・ツーリズムについて記させていただきました。「旅行」は今でも最も人気の高い趣味の一つにランクインしていますよね。そうした旅行にはほとんど目的があるものです。「あてもなく旅行をするのが楽しみ」という方もいるかもしれませんが、それさえも目的の一つになってしまうことでしょう。

 そうした目的を細かくひも解くと、海外のツーリズムのガイドブックには景勝地や町並み、イベント(オペラや闘牛)、食の楽しさが大きく取り上げられています。必ず登場するといっても過言でないことに、「ワイン産地訪問」が挙げられます。「美味しいワイン産地として有名」とか「産地の美味しいワインに舌鼓を打ってはいかが?」などと、説明がなされています。

 お国柄にも差がありますが、実はワインで有名なフランスは(産地にもよりますが)どちらかと言えば、ツーリズムに対して閉鎖的に映る場合が多いものです。一方、カリフォルニアのナパ・ヴァレーに代表されるような産地は、ワイン・ツーリズムが最大の呼び物として定着し、世界中からそれ目当てに旅行してくる立派な観光地になっています。ワイン新興国となる南半球のニュージーランド、日本酒よりはるかに浅い歴史しかないワイン産地オーストラリアでも、ナパ・ヴァレーほどではないにせよ、随所でワイナリー訪問がオープンになり、ガイドブックでもしっかりとアピールされています。

 また、ワインの「伝統国」として名高いスペインでも、現在そうしたツーリズムが進んでいます。極端な例では、ワイナリー改装の際に、世界的に活躍するデザイナーが建築を手掛け、そのデザインやインテリアを楽しむ訪問客まで現れるシーンも散見されます。簡単な試飲がお得な価格でき、旅行者が気に入ったワインを購入してゆくのが当たり前、そんな印象なのです。

 私が調査したオーストラリアの著名産地10軒程度の情報を総括すると、売上の約10〜25%をそうしたツーリズムの来客が占め、無視できない大きさになっています。今後のさらなる増加が予想される日本酒の輸出需要は、日本への旅を計画する海外の旅行客にとって「酒ツーリズム」へと発展してゆく気もします。

 先日、取材もかねてとある酒蔵に訪問した際、カメラマンの方々が蔵に入った瞬間

 「ほら、いい匂いが漂ってる!」

 張り詰める程に澄み切った凍てつく空気に漂うもろみの香りに反応。それに呼応するように、蔵元さんが

 「搾りたてで瓶詰したばかりのお酒がありますが、お味見してみますか?」と、利き猪口にそれを注いでくれました。

 「しあわせ〜!」と言い、目を細めながら味わっていました。

 慣れている私は「大袈裟だなぁ」と感じますが、その時の彼らの表情は本当に幸せそうでした。

 日本酒のNo1プロモーションは、やっぱり訪問してもらって蔵元で「見て」「聞いて」「体験して」もらうのに勝るものはない。そう思いました。

 蔵元さんには、人員不足の問題であったり、繁忙期に煩雑な手間が掛かるように映ったりと、能動的に動きにくいかもしれません。その一方で、私の海外からの来客の方々のほとんどから(ワインに関わる業界の方ばかりなので当然かもしれませんが)

 「素晴らしく美味しい日本酒を醸す酒蔵に連れて行って欲しい」 との要望が多いのも事実なのです。

 彼らは沢山の日本酒の銘柄を覚えるのは大変だからこそ、一度訪問した蔵の名前だけは忘れないようにします。日本酒におけるそうしたアングルがどのように変化をしてくるのか。そんな観点も楽しみなところです。                         

日本酒
銘柄名松の寿
日本酒名純米吟醸 かすみ酒
特定名称純米吟醸 無ろ過生原酒
生産地栃木県塩谷郡
品種五百万石
精米歩合55%
日本酒度+4
小売価格
生産者松井酒造店
【外観】 うっすらと霞がかかった様の濁った白濁した外観です。
【香り】 控えめな芳香性、正に発酵中のお酒を汲んできたかの如く、様々なエステルに包まれています。フレッシュな桃、バナナ、そして柑橘系の果物、ショート・ケーキのようなクリーミーな香り、そしてお餅のような香りも印象的です。
【味わい】 スムースで軽やかな印象から徐々に味わいが広がる印象ですが、基本的に辛口でライトからミディアム・ボディです。酸味はさほど高くは感じないのですが中程度で、それが次第に感じてくる高めのアルコール感と調和したようなセンセーションとなります。余韻には苦みも感じ、それがこのお酒を辛口に感じさせています。
【総評】 全体的なフレッシュな印象がこの原酒というカテゴリーにおいてこの酒質を軽やかに感じさせます。アルコール感は酸味を緩衝させるように働いているものの、まだ大変若いお酒で、これから3ヶ月はゆるやかに熟成してゆくでしょう。白濁した澱は口内をざらつかせるようなことはなく、実にスムースです。
2012年1月17日  読売新聞)
筆者プロフィル
大橋 健一
(株)山仁酒店の代表取締役社長。リカー・コンサルティング(株)サマーソルト取締役兼プレミアム商品開発室長。WSET LondonのDIPLOMA、(独)酒類総合研究所清酒専門評価者などの資格を有するほか、インターナショナル・ワイン・チャレンジ・ロンドン日本酒部門副議長、ジェニー・チョー・リーMW運営「アジアン・パレット」http://www.asianpalate.com/のエキスパート・パネルなど、世界のワイン、日本酒シーンで活躍する。http://twitter.com/KenichiOhashi/でワインや日本酒のフード・ペアリングを配信。
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