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接客は人間力 生活態度がサービスに直結

西村圭太郎(帝国ホテル・レストラン部ソムリエ)

 日本を代表する格式あるホテル。外国からのゲストの難しい注文をどのように乗り切りましたか。

 
A 外国の方は紳士淑女が多く、無理難題を突きつけられた記憶がありません。一番難しいご注文は「Good Wine, Please!」でしょうか。食前からワインを召し上がりたい方で、料理もまだご注文されていない。初めての来店で、どういう味わいがお好みで、価格帯はどのくらいが良いのかもわからない。その状態での「Good Wine」です。そんな場合、私はお話をしながら、ワインの好みを聞き出す、どちらの国の方かなど、情報を出来るだけ多く引き出してから選びます。

 ただ、多くの情報を短時間で聞き出すのはかなり難しいので、来店されてから席にお着きになるまでの仕草や会話、雰囲気などは必ずチェックするようにしています。また、「料理を先にお決めになっては?」とご提案し、そのお料理に合ったワインを選ぶようにもしています。しかし、とにかく美味しいワインを今すぐ飲みたいという方もいらっしゃいます。そのような方にはコストパフォーマンスに優れ、一口目にインパクトのあるワインを選ぶようにしています。一口目で美味しいと感じていただければ、あとはお客さまとの会話から次のワインを選べます。運が良いのか今までに一口目で「NO!」といわれた事は一度もありません。

 それから、英語や日本語をまったく話せず、母国語のみしか理解できないというお客さまのワイン選びはとても難しいですね(笑)。そんな時はグラスワインをすべてテイスティングしていただき、お好みの味わいのワインを選んでいただいたこともあります。言葉は通じなくとも、飲めば一発でお互いに理解できるからです。

 

ソムリエ・コンクールに向けた訓練は、その後の仕事にどのように生きていますか。


A コンクールを受けようと思ったきっかけは単純。自分のスキルを上げたかったのです。予選落ちして、初めて自分のレベルがわかりました。予選通過のためにしたのは、まず日々の仕事の中で、どんな小さなことにも疑問を持つようにしました。そうすると、いつでも何かを考えながら接客するようになり、お客様として何をしてもらったらうれしいだろうと、意識するようになりました。

 コンクールに向けた訓練ですが、例えば、JALUX WINE AWARDはソムリエのみならず、若手のサービスマン全員を対象とした大会です。何が課題に来てもいいように、デクパージュ(客の前で切り分ける)できるものはすべて特訓しました。ソール(ヒラメ)、アニョー(子羊)、プーレ(若鶏)など。現在、主に勤務している「ラ・ブラスリー」では、デクパージュやフランベするメニューがいくつかあります。ソムリエの服装でタブリエをつけ、ワインをサーブしながらそれらをこなせるようになりました。

 また、コンクールには制限時間のある課題が多く、時間を気にしながら取り組まなくてはなりません。そのため、スピーディかつ、スマートにふるまう事を念頭において、仕事に臨んでおります。自分の中で食前酒は1分で提供する、デカンタージュは3分で行うなど、時間を決めて普段から行うとその動きが自然と身につきます。コンクールの時はあせらずに、普段通りの動きをすればよいわけです。

 そのほか、大事なのはコンクールにとらわれて、通常業務がおろそかになるのはもってのほかだと思います。私の場合、コンクールがあるからそのために訓練を積む、という姿勢ではなく、普段から時間を気にしたり、勉強したりして、レストランサービスにおいて必要な事をしてきた積み重ねの結果がコンクールにつながっているように思います。コンクールがあるから勉強もするわけですが……コンクールがスキルを高め、普段の仕事がコンクールの訓練になる、といった感じで、双方が同時に向上するのが理想ではないでしょうか。

 一つの職場で働き続けると、仕事がルーティン化するおそれがあります。知識やサービスのアップデートを心がけていますか。


A まず私たち帝国ホテルのソムリエは、レストラン部のソムリエという部署に所属しています。その部署に7人がソムリエとして勤務しています。個々に担当のレストランがあり、基本的にはそのレストランで仕事をしています。しかし、星付きレストランで仕事するときもあれば、カジュアルなフレンチや鉄板焼きレストランで業務をすることもあり、時にはバーから要請がかかることもあります。

 レストランが違えば、いらっしゃるお客様の層も違います。接客の方法も違います。ですので、常にどんなお客様にも対応が出来るよう、スタッフは皆、訓練されています。日によって職場がかわることで、精神的、肉体的にきつい時もありますが、毎日新鮮な気持ちで仕事に臨める環境ではあります。でも、それでは帝国ホテルの中だけにとどまってしまいます。私は定期的に他のホテルのレストランや街場のお店に足を運ぶようにしております。

 私の名前で予約を入れて、帝国ホテルのソムリエだとばれてしまうことが1、2度ありました。普段以上のサービス受けることもあり、参考にならなくなってしまいます。最近は私の名前ではなく、同席者の名前で予約し、存在を隠して、知人のいないレストランへ食事に行くようにしています。そうすることで、ソムリエとしてではなく、純粋に普通のお客としてサービスを受けられます。自分に持っていない接客のやり方を見つけることが出来ます。

 逆に、海外でレストランに入ったときは、「自分はホテルのソムリエで日本から勉強するために来た」と最初に言ってしまいます。お店の方が「こんなのは日本に無いだろう」と様々なワインや食材を持ってきてくれるのでかなり勉強になります。最終的に飲みすぎてグロッキーになることもありますが……というのは、海外のレストランスタッフの方は、同業だからと接客が変わるわけではなく、どのテーブルも同じ接客をしていると私は思うのです。

 フレンチやイタリアンだけでなく、鉄板焼き、寿司、てんぷら、中華など様々なレストランで食事したり、バーに行ったりするようにしています。果てはスタンディングの居酒屋で朝まで飲んだくれることもあります(笑)。そこから学ぶこともあるので、馬鹿には出来ません。飲食に関わることすべてが勉強のような気がします。

 日ごろ感じている部分ですが、接客業で一番重要なことに人間力があると思います。接客業はお客様があって成り立ちます。サービスは対人間という形の無いものなので、最終的に人間力が大切になってくるのではないでしょうか。電車に乗っているときもコンビニで買い物するときも、マナーを大切にするように心がけています。そういった人格構成が接客業には不可欠だと思います。普段から節度ある生活を送ることがサービスにつながるのではないでしょうか。

 ふだんはソムリエの正装ですが、オフはどんな格好で何を飲んでいますか。定番の銘柄は?


A 普段は様々なお店に行きます。服装はシチュエーションに合わせますが、ジーンズやチノパンなどにジャケットというスタイルが一番多いです。もちろん、高級店へ行くときはスーツを着て行きます。夏場の暑いときには地元の居酒屋へ、ハーフパンツで出かけるときもあります。

 月1、2回のペースでお邪魔する、自宅から10分ほどのリーズナブルで、ボリュームたっぷりの料理を提供するブラスリーがあります。安くて、美味しくて、ボリュームたっぷり。料理は日替わりです。最初の1杯はまずビールから入ります。そして、白ワイン、赤ワインと続けます。銘柄もこだわらず、その日のお薦めで料理に合わせることが多いですね。たまにお土産を持っていって、一緒に1本ワインを持ち込ませてもらうこともあります。

 普段飲むのはやはりワインの比率が高いのでしょうか。ワイン以外でよく飲むものといえばビール、焼酎。自宅で飲むときは、缶酎ハイや缶ビールも飲みますし、ワインも飲みます。実は焼酎のお湯割りに梅干しを入れて飲むのが大好き。銘柄にはこだわりませんが、麦よりも芋の方が飲む比率は多いですね。スプマンテのフェッラーリを飲むのも大好きで、自宅のワインセラーに常時飲めるように冷やしてあります。自分の名前入りフェッラーリ・ペルレも数本購入してあるので、特別なときに開けたりもします。

西村圭太郎(にしむら けいたろう)
1978年11月、大阪府出身。帝国ホテル・レストラン部ソムリエ。ランチはレ・セゾン、ディナーはラ・ブラスリーで勤務。99年、神戸の専門学校卒業後、帝国ホテル入社。レ・セゾンで半年ほどコミソムリエを経て、2006年2月よりソムリエ。09年JALUX WINE AWARD 優勝。10年JET CUP イタリアワインベストソムリエコンテスト優勝。

2012年2月1日  読売新聞)

(社)日本ソムリエ協会の協力で、ソムリエの仕事についてききます。

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