ロベール・アルヌー 子どもの誕生日に思うこと上の子の10歳の誕生日に選んだロベール・アルヌーの「ヴォーヌロマネ・レ・スショ」は、思いいれのある銘柄の一つです。 ほかならぬこの「レ・スショ」の1996年を、リリース後間もない時期に、「割烹小田島」で飲んだのが、深くブルゴーニュに傾倒するきっかけとなったからです。 当時の私が主に飲んでいたジャンルは、ボルドーや新世界のものでした。ブルゴーニュについては安価な裾物ばかり飲んでいたこともあり、「基本的に酸っぱくて気難しいもの」「当たりハズれが大きくリスキーなもの」という思い込みがありました。その先入観を打ち壊してくれたのがこのアルヌーだったのです。 フローラルで華やかな芳香、甘くジューシーな味わい、リリース間もないのに美味しく飲めてしまう懐の広さ。大げさでなく「目からウロコが落ちる」体験でした。それ以来、私の嗜好はブルゴーニュに大きく舵を切り、ロベール・アルヌーは大好きな生産者の一人になりました。 当然、上の子の誕生年の2002年のワイン購入にあたっても、まとめ買い候補の筆頭でした。しかし、現実には人気銘柄の「ヴォーヌ・ロマネ・レ・スショ」をそうそう何本も購入することはできなかったので、最終的に「ヴォーヌロマネ・レ・ショーム」、「エシェゾー」とをとりまぜて8本購入しました。 ところが、これらのボトルを飲み進めるうちに、私のアルヌーに対する心象は揺らぎ始めました。年とともに、香味の中にいわく言いがたい「クサい」ニュアンスが出るようになってきたのです。それがどうも気になって、次々と開けていくうち、気が付けば8本のうち6本を開けてしまいました。 今まで開けた感想を改めてひも解いてみると…(ヴィンテージはすべて2002年)
一口に動物的な香りといっても、皮革系の官能的な素晴らしい芳香もあれば、いわゆる「濡れ子犬」のようなやや怪しげだけれど、惹き付けられる香りもあります。私がここで感じたのは、菌の影響か酵母の影響なのか、もっとネガティブなニュアンスでした(この部分、うまく言葉で表現できないのがもどかしいのですが…) 熟成に伴って出てくるこの性質がアルヌーに共通のものなのか、それとも02年に特有のものなのか、あるいは私が購入したボトルたちがたまたまそうだったのかは、よくわかりません。一般化できない前提のもとで話を進めますが、これらのボトルたちは、おそらくリリース後間もないうちには、フレッシュでみずみずしい香味にマスキングされて目立たなかったものが、年とともに初期の若々しい香りが後退して、ネガティブなニュアンスが目立つようになってきた。09年あたりになると、ようやく熟成香が前面に出てきて、また目立たなくなった、ということなのだと思っています。 そんな流れで開けた今回のレ・スショでした。 グラスに注ぐと、エッジを中心にオレンジのニュアンスがはっきりと見て取れます。香りはカシスやダークチェリーなど赤と黒の中間位の果実、ダージリン、スパイス、皮革、毛皮、焦げ臭など。よく熟成していますが、やはりこのボトルも陶然とするような香りというよりは、ほんの少しノイジーなクサいニュアンスが垣間見えます。 味わいはミディアムからフルボディといったところ。酸がしっかりしており、タンニンは溶け込んでなめらかになっています。果実味はドロンとした感じ。下草系の香りが含み香に感じられます。何杯か飲み進めるうちに「クサい」ニュアンスは影を潜め、全体のバランスも向上してきました。総じて、今まで飲んだアルヌーの延長線上の香味で、それなりに満足のいくものでしたが、10年の熟成を経て大きな付加価値が加わったかというと、いくぶん物足りなさを感じたのも事実です。 ちなみに、この銘柄の飲み頃予想と点数について、海外の評価を確認したところ、WA誌では、2007-2017年(94点)、Burghound.comは、2012+(92点)と、飲み頃についてかなり見解が異なっています。今回飲んだボトルはBurghoundのアラン・メドウズ氏の予想に近い印象でした。 ロベール・アルヌーは、早めに開けたほうが真価を発揮する生産者なのでしょうか。いやいや、ここまでの数本だけの印象で決め付けるのは早計というものでしょう。過去に異なるビンテージで素晴らしい古酒を経験したこともありますし……セラーに残っている最後の1本については、思い切って娘の20歳頃の誕生日まで寝かせてみようかなどとも考えています。 (2012年2月7日 読売新聞)
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