ビルの谷間の焼がき小屋そのままが、うまいこの冬一番の寒波が襲った日、博多湾に接する福岡市は、前夜の雪が終日、歩道脇の植え込みなどに白く凍りついていた。 夕方、小雪を踊らせる北風に背中を押されながら焼がき小屋を訪れた。都心・天神に近いビル街。明かりの入ったちょうちんが小屋の軒先で揺れている。 焼き台は20。その中の1台を選んで、木製の長いすに座った。「今は長崎県五島産のカキを提供しています。朝採れを空輸していますので鮮度は申し分ありません」。かき小屋を経営する釣船茶屋「ざうお天神店」の池末憲精副店長が真向かいに座って話す。 スコップに山盛りの炭火が来た。盛んに炎を上げている。コンロにどどっと落とし込まれ、その上に焼き網がセットされた。顔にぬくもりが届き、燃える炭の香が懐かしい。カキの焼き汁をたっぷりと吸った金網の焼けるにおいが混じってくる。 池末さんが立って、プラスチックのかごを持ってきた。中に生ガキが10個。「1個100円ですね」。言いながら、金網の上に並べていく。「五島産は型は小さいけど、中はしっかりと詰まっています」。 頃合いを見計らって火箸でつまんで手元に落とし、軍手をした左手でカキを押さえ、右手で専用のナイフを操って身を外す。それをしょうゆ、ポン酢、塩・コショウ、好みの調味料をかけ、あるいはそのまま食べる。いろいろ試したが、やはりそのままが一番だと感じた。何よりカキ殻に残った潮の強い香が鼻と舌に実にうまい。そう言うと、「そうでしょう!」。 炭火を囲めば会話が弾むほとんどの人が2かご(20個)、多い人は3かご(30個)を空にするそうだ。ほかにも車エビ(1尾300円)、地鶏(1皿800円)、ホタテ(1個200円)、イカ(1串300円)、サザエ(1個200円)などがあり、アルコール類はビール、日本酒、梅酒が各500円、焼酎が400円。カキ釜飯が600円。宴会メニューも2コース(前日までの予約が必要)。 小屋内に野菜販売店があり、野菜盛り合わせ(350円)、シイタケ(250円)、トウモロコシ(300円)、エリンギ(150円)など、好きなものを買って、一緒に焼いて食べることもできる。「中には包丁を貸して、と言って、自分で野菜を切る人も」と店長の古賀章郎さん。 池末さんは「すぐそばのスーパー銭湯からの帰りに寄っていく人、女子会を開く人、出張で博多に来た人をもてなす企業の人、家族連れ、勤め帰りの会社員、様々な方たちがいらっしゃいます」と言う。 話し込んでいると、女性1人、男性2人のグループ、男性の4人連れが入って来る。思い思いの焼き台を囲み、炭火に顔を赤く染めながら話が弾む。「10人ほどですが……」と訪れた会社員もいる。 次第に夜の色が濃くなり、風はいっそう冷えてきた。小屋を出て振り返ると、ちょうちんが色合いを増している。冷たい中に笑い声が聞こえてくる。
(2012年2月7日 読売新聞)
|
|
▲この画面の上へ |
会社案内|
サイトポリシー|
個人情報|
著作権|
リンクポリシー|
お問い合わせ| YOMIURI ONLINE広告ガイド| 新聞広告ガイド| 気流・時事川柳(東京本社版)への投稿| 見出し、記事、写真の無断転載を禁じます Copyright © The Yomiuri Shimbun. |