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国際化(2)留学しない日本の学生


シンガポールに招かれて研究室を持つ吉戒さん

リスク避け内向き傾向

 米エール大や英オックスフォード大、東京大など世界の10大学が、夏休みに学生を派遣し合い、交流を深める「グローバルサマープログラム」。2年目の今年、派遣募集に応じた東大の学生は18人。昨年の5人に比べ増えはしたものの、海外から31人も受け入れるだけに、東大の担当グループは「もっと積極的にPRするべきか」と頭を悩ませる。

 海外から日本に来る留学生が最近10年間で2・4倍の12万3829人に増える一方、留学する日本人は2004年度の8万2945人をピークに減り続ける。米国への留学者は、02年度の4万5960人が07年度は3万3974人に減った。

 文部科学省留学生交流室は「少子化の影響に加え、学生の気質が全体に内向きになっている」と分析する。

 中国の清華大と東京工業大が始めた大学院の合同プログラムでも、中国からの受け入れは5年間で55人に達したが、中国へ行く東工大生は20人にとどまる。

 名古屋工業大は、春休みの1週間、仏エリート養成校の一つ情報系工科大で希望する学生に体験授業を受けさせる。担当の佐藤淳教授によると、「県外にも出たがらない」学生たちの目を海外に向けさせるのはひと苦労だ。

 だが、優秀な人材は海外へ飛び出していく。

 医薬品の合成に使う新しい触媒を研究する吉戒(よしかい)直彦・東大助教(31)は今年7月から、シンガポールで研究室を構える。世界から優秀な若手を招き、3年間で1億5000万円の研究費を支給する同政府のプログラムに採用された。

 今年1月の最終面接には、186人から選ばれた19人が参加した。自信満々に研究のアイデアを説明する同世代の研究者たちに「負けられない」と刺激を受けた。中国やスイス、トルコ出身の研究者らとともに、最後の10人に残った。

 吉戒さんは「若手が大きな資金で独立して研究できるのは、日本にはないチャンス。可能性を試してみたい」と意気込む。

 2年前、東大を休学し、米カリフォルニア大バークレー校に編入学した高瑞軒さん(22)。今年、ハーバード大やスタンフォード大、シカゴ大など著名な大学院に軒並み合格した。

 高さんが驚いたのは、学生の個性と能力に応じ、様々なメニューを提供する米国の大学の柔軟さ。じっくりいろいろな体験を積みたいと思うようになった。

 米国で留学生の就職支援を手がける村磯鼎(かなえ)さん(49)は、「優秀な人ほど、若いうちに海外へ出て、そのまま戻らずに活躍する傾向が強い。一方、一般の学生は、帰国後に安定した職を得るのが難しいから、リスクを避けて内向きになっている。科学立国に最も重要なのは人材。異なる環境で刺激を受けて才能を伸ばす機会が失われるのは、国の損失だ」と憂えている。

2009年4月19日  読売新聞)

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