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徳島県・飯泉嘉門知事(第5期後期・11月9日)

糖尿病ワースト1返上、今や医療観光モデル〜飯泉知事講義要旨

医療観光

 徳島県は1993年から2006年まで14年連続で糖尿病死亡率全国ワースト1だった。原因は食べ過ぎと運動不足だ。07年に一度抜け出したが、08、09年は全国最下位に戻ってしまった。

 根本的な対策が必要で、県から徳島大病院に委託して対策センターを設置した。全国的な医薬品メーカーもあり、「新薬、健康食品、最先端の治療法を開発していこう」「糖尿病対策関係の施設が多いフィールドを活用しない手はない」と文部科学省から事業採択され、今では、ドイツ、中国、米国の大学と連携する世界的な研究開発・臨床拠点となっている。まさに「ピンチをチャンスに」だ。

 世界には約3億人の糖尿病患者がいる。アジアに徳島の知見をPRしてはどうか。糖尿病治療に来るだけではなく、鳴門の渦潮、阿波おどりなど徳島を体感できる医療観光を創造したい。中国人向けの個人観光ビザの発給要件が緩和され、対象になる人は10倍に増えたところだ。

 もう一つの海外に向けての目玉商品に「教育旅行」を用意した。対象を中国、韓国に広げて、8月には韓国から総勢741人の学生が来てくれた。徳島に来たら京都、大阪、神戸にも行ってもらえる。糖尿病ワースト1から、今では日本の成長戦略となる医療観光のモデルケースを徳島が担っている。

ICT先進県に

 現在、徳島のアナログ放送は在阪民放も含め10局が見られる。しかし、地上デジタル放送になると、3局まで減ることになり大ピンチだ。どうクリアするか。

 対策として、全市町村へのケーブルテレビの整備を02年から始めた。同時に光ファイバーも張り巡らされ、ブロードバンド環境を獲得することができた。今では地方公共団体の光ファイバー保有延長が全国3位で、県民一人あたりでは1位だ。まさに「ひかり王国・とくしま」となった。

 そこで、ブロードバンド環境を用いて、コールセンターやデータセンター、デジタルコンテンツ産業であるアニメやコンピューターグラフィックスの制作会社を誘致するなど
情報通信技術(ICT)関連産業の立地を進めている。

林業再生

 阿波・徳島は古くから近畿地方と木材の商いで活発に交流してきたが、昭和に入って外国産材が入り、価格が一気に下落。1969年には木材自給率が50%を割り、林業者が減少し、山林を放置、林業の崩壊につながった。私有林が多い県では特に、山腹崩壊から二次災害が起こる危険性が高まった。

 21世紀は環境の世紀。二酸化炭素の排出権取引が広がり、外国産材を輸入することが難しくなる。徳島は先取りして林業を再生しようと挑戦を始めた。消費拡大を図るとともに、木を切り出す必要があり、若手作業員が参画できる。需要から供給まで一貫して対応した結果、新規就業者は130人を超えた。

行財政改革

 地方の一番の稼ぎ頭である地方交付税が、2004年度の小泉政権時に行われた三位一体改革で徳島では1年で227億円(12・3%減)カットされた。6年間で1362億円も削減され、貯金の487億円で3分の1をしのいだが、残りを手当てしなければならないという大ピンチ。どう埋めたのか。

 人件費、扶助費、公債費からなる義務的経費のうち、人件費では、早期退職を募り、団塊世代の大量退職で職員数を7年間で462人(12・3%減)削減したが、まだ足りない。「禁じ手」の給与カットを08年度に実施した。

 しかし、根本的に行政の質を変えないといけない。予算の概念を変えようと、職員の知恵と工夫で事業を作る「ゼロ予算事業」、公務員が実施していた事業を民間の協力でそのノウハウを生かす「県民との協働推進事業」、民間から経費をいただく「県民スポンサー事業」を進めている。

ピンチをチャンスに

 どこの都道府県も今はお金がない。新しいことをやることにお金が出せないデメリットがあるが、逆に、職員のチャレンジ精神が燃えさかるメリットがある。「あれがやりたい」という発想は成功する可能性が高い。モデル事業という方法で、どんどん応援する。

 100年に1度のピンチだが、逆に、今まで出来なかった事業で、徳島発展の礎を築くチャンスになると思っている。

2010年11月18日  読売新聞)
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