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「漫画担当」記者となる(3)

 先日、知人からこんな連絡があった。「漫画家のすがやみつるさんのツイッターで、この連載が紹介されている」と。「マンガ好きの記者で以前、取材を受けた」という内容だったという。実は、すがやさんを取材したのも、前回書いた「人気コミック フーズ・フー」の一環だった。すでに四半世紀近く前のことだ。

 当時、石ノ森章太郎さんの「マンガ 日本経済入門」を始めとする情報マンガとでもいうべき作品が人気をよんでいた。その一つとして、「株」や「パソコン」といったテーマを中心に活躍していたすがやさんの「いまパソコン通信がおもしろい」(徳間書店)という作品をとりあげて紹介した。本来ならば、その出世作の「ゲームセンターあらし」をとりあげるべきだったのだろうが、なにぶんにも入手可能な「新刊」紹介の部分もあったため、そんな形になったわけだ。

 すがやさんは、当時としては最先端ともいえるパソコンを使ってマンガを描くなど、新分野のフロンティアとしてユニークな立場の作家だった。現在でも、マンガの世界でのコンピューター利用が普及したとはいえないが、そのころは、現在どころの話ではない。まだまだ、開発途上といったところであった。すがやさんも、「線の粗さがねぇ」などと苦笑されていたような記憶がある。今では、コンピューターはアニメなどでは最も有力な武器であるし、3Dなどコンピューターがなければ成り立たないものまである。まさに隔世の感ひとしおだ。

 すがやさんだけでなく、「コミック フーズ・フー」のおかげで、多くの作家に会うことができたのは幸運だった。旧来の文化部であれば、取材という名のもとに、堂々と好きな漫画家たちから話を聞くことなどできなかっただろう。作家の方も、一般紙の記者が単なる話題ではなく、作品そのものの紹介や作品に対する思いを取材に来ることなどほとんどなかった時代だけに、「文化面に載るんですか」と驚く人もいた。ただ、従来の文化面とは違っていたため、「新しい文化面ですけど」といちいちお断りするのも(しゃく)の種だったが。そのうち、マンガに対する社会の評価にも変化が見え始めた。それを感じるようになったのは、90年代にはいってからぐらいだろうか。そのころから、文化面でも、マンガに関する記事を取り上げてもらえるようになったからだ。

 「ようやく、マンガも文化として認められた」と内心(自分ががんばったからだと)鼻高々の増上慢である。

 だが、それは、終わりの始まりでもあったのだが。

プロフィル

吉弘幸介:読売新聞東京本社記者。文化部で10年余マンガなどを担当した。

2012年1月6日  読売新聞)

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