裁判について考えるきっかけに
石崎洋司(いしざき・ひろし)さん 53
「少年弁護士セオの事件簿」シリーズの訳者
裁判所を舞台に、法律家を夢見る13歳の男の子セオが活躍する『少年弁護士セオの事件簿〈1〉 なぞの目撃者』(岩崎書店)が出版されました。作者は、法廷や弁護士を題材にした作品の名手で、映画の原作も数多い米国の人気作家ジョン・グリシャム。新シリーズは、初の児童向け作品です。
翻訳した石崎洋司さんは、「黒魔女さんが通る!!」や「マジカル少女レイナ」シリーズなどの子ども向け小説で知られ、グリシャムのファンでもあります。「僕の作品とは全く違う世界ですが、楽しんで訳せました」
米国の架空の町、ストラテンバーグで、女性が殺害される事件が起きます。容疑者として逮捕されたのは夫のピーター・ダフィー。注目の裁判が始まりますが、犯行の決定的な証拠はありません。
弁護士夫婦の息子で、家庭に問題を抱える友達の法律相談にも乗っているセオも、この裁判に興味津々。傍聴するうち、偶然、事件の重要な鍵を握ることになります。ダフィーは有罪になるのか、無罪か、それとも――。
児童書とはいえ、グリシャムの紡ぐ物語は本格的。実際の裁判の流れに忠実に描き、「無罪の推定の原則」や「一事不再理」といった難しい法律の考え方も解説していきます。「テレビドラマのようにストーリーを展開させ、法律の仕組みを巧みに織り込んで子ども向けに説明する技術に感心しました」
石崎さんも、日本の子どもたちが親しみやすいように、セオの視点からオリジナルの補足説明を入れるなど、工夫を凝らしました。
米国は日本と異なり、裁判官と市民の距離が近い特徴があります。日本でも裁判員制度が始まり、司法が身近になりつつあります。「10代の子どもたちも、大人になったら裁判員に選ばれるかもしれません。この本が、裁判について考えるきっかけになればと願っています」(貴)
(2011年10月11日 読売新聞)