自分自身でいい絵本見つけて
中川素子(なかがわ・もとこ)さん 69
『絵本の事典』の編集に携わった文教大学教授
皆さんが普段、手にしている絵本。そこには、それぞれの国の長い歴史の中で培われた、独特の表現やデザインがあります。
絵本を様々な視点から解説した『絵本の事典』(朝倉書店)の出版に、編集の代表としてかかわりました。
「世界中の絵本について総合的に研究した事典は、日本ではもちろん、世界で初めてです」と話します。
内容は、「絵本とは何か」という問いかけに始まり、日本のほか、欧米各国やアジアの国々で絵本がどのように作られてきたのか解説しています。社会と絵本との関わりなどについても取り上げ、約650ページにまとめました。
朝倉書店から依頼を受け、編集を始めたのは5年前。自ら筆を執る傍ら、100人を超える学者や作家らにも執筆を依頼し、内容が偏らないように工夫しました。
自身は、優れた製本デザインや、ユニークな絵の表現など、美術の視点から絵本の面白さに注目して研究を続けてきました。『絵本の事典』の中では、絵本の起源について解説しているほか、開くと絵が飛び出すもの、ページに穴を開けたデザインなど、美術センスが生きている絵本について紹介しています。
例えば、「絵本のメディア・リテラシー」という章では、絵本の表現の自由さについて、「絵本にかかわるさまざまな人に、その人の望んでいる姿を見せる不思議な生き物なのかもしれない」と記しました。
現在は、学校を題材にした美術作品の中に見られる子どもたちの姿から、教育現場の在り方を考える著書を執筆中。絵本を、単なる「幼い子どもが読む本」として見るのではなく、芸術として問い直していくつもりです。
「純粋に見て楽しく、アイデアにあふれた絵本には、芸術的な価値があります。『ためになるから』と大人に薦められた絵本を読むのではなく、子どもたち自身にいい絵本を発見してほしいですね」(貴)
(2012年1月17日 読売新聞)