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『胡桃の中の世界』 澁澤龍彦著

中世の不可思議な魔境

 タイトルの小編を含む13編のエッセーは、その一つひとつが、中世社会の不可思議な魔境をのぞくような刺激に満ちている。

 表題エッセーは、「入れ子」の無限構造に、大小の宇宙観を見る。目に見える世界とは全く異なる世界があるのだと、想像力をたくましくさせてくれる。

 また、「宇宙卵について」は、イタリア・ルネサンス時代の画家ピエロ・デッラ・フランチェスカが描いた祭壇画の聖母の頭上の卵を機に、「両性具有」や「賢者の石」など、あらゆる文献をひき、めくるめく怪奇世界に引き込む。

 「サディスト」の語源であるフランスの小説家サドを始め、世界中の異端文学や怪奇(たん)を世に紹介した作家澁澤(しぶさわ)龍彦(1928〜87)を初めて読んだのは大学生の頃。不思議な挿絵を含め、猟奇的な悪徳と聖なる美徳が相対する世界に圧倒された。

 現代も20〜30代の読者を引きつけるというから、抑圧的な現代に生きる若者にとって、ある種の知的欲望のはけ口になっているのだろう。
(井)


1974年刊。84年刊の旧版と2007年の新版を合わせた河出文庫版は6万1000部。780円。

2011年12月7日  読売新聞)

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