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『O・ヘンリ短編集』 大久保康雄訳

クリスマスに必ず読み返す

 もうすぐクリスマスが来る。有名すぎるけれど、この時期に必ず読み返したくなる作品がある。米国を代表する短編作家が残した一編「賢者の贈りもの」だ。

 アパート暮らしの若い夫婦は貧しく、相手へクリスマスプレゼントを買うお金がない。妻の財布には、わずか1ドル87セントしか入っていなかった。それでも夫の自慢の時計に鎖を贈りたいと考えた妻は、長い褐色の滝のような髪を売る。同じ頃、夫も――。

 大切な人間のために自分を犠牲にできること。相手が喜ぶその瞳の奥に本当の幸せはあること。人間を愛するとは、生きるとは何かが、この短編には汚れのないまま凝縮されている。

 「最後の一葉」「警官と賛美歌」など、人生の哀歓がにじむ名品を多く残した作家は、幸せな私生活を送ったとは言えない。家が没落して職を転々とし、創刊した週刊誌の経営に失敗し、服役生活も経験した。

 だが、時には苦しい運命に押し流されながら、それでも生き続けた人間の書く物語だけが、人の心を打つだろう。小説とは、作家の生の上澄みだからだ。(待)

 1969年、新潮文庫刊。全3巻で計338万8000部。「賢者の贈りもの」は2巻に収録。

2011年12月20日  読売新聞)

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