『O・ヘンリ短編集』 大久保康雄訳
クリスマスに必ず読み返す
もうすぐクリスマスが来る。有名すぎるけれど、この時期に必ず読み返したくなる作品がある。米国を代表する短編作家が残した一編「賢者の贈りもの」だ。
アパート暮らしの若い夫婦は貧しく、相手へクリスマスプレゼントを買うお金がない。妻の財布には、わずか1ドル87セントしか入っていなかった。それでも夫の自慢の時計に鎖を贈りたいと考えた妻は、長い褐色の滝のような髪を売る。同じ頃、夫も――。
大切な人間のために自分を犠牲にできること。相手が喜ぶその瞳の奥に本当の幸せはあること。人間を愛するとは、生きるとは何かが、この短編には汚れのないまま凝縮されている。
「最後の一葉」「警官と賛美歌」など、人生の哀歓がにじむ名品を多く残した作家は、幸せな私生活を送ったとは言えない。家が没落して職を転々とし、創刊した週刊誌の経営に失敗し、服役生活も経験した。
だが、時には苦しい運命に押し流されながら、それでも生き続けた人間の書く物語だけが、人の心を打つだろう。小説とは、作家の生の上澄みだからだ。(待)
◇
1969年、新潮文庫刊。全3巻で計338万8000部。「賢者の贈りもの」は2巻に収録。
(2011年12月20日 読売新聞)
- 『大名の日本地図』 中嶋繁雄著 (3月7日)
- 『巴里の空の下 オムレツのにおいは流れる』 石井好子著 (2月29日)
- 『動物化するポストモダン』 東浩紀著 (2月22日)
- 『スローカーブを、もう一球』 山際淳司著 (2月15日)
- 『国語入試問題必勝法』 清水義範著 (2月8日)
- 『ブリューゲルへの旅』 中野孝次著 (2月1日)
- 『天平の甍』 井上靖著 (1月25日)
- 『わたしが・棄てた・女』 遠藤周作著 (1月18日)
- 『心に太陽を持て』 山本有三編著 (12月28日)
- 『O・ヘンリ短編集』 大久保康雄訳 (12月20日)
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