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ペット

プロローグ 〜ストーリーは、ある猫との出会いからはじまった。

©Kouji Nakagawa

ぼくは、なにを思ったのか、あるとき公園に身をおいた。
いつも強がって生きていたぼくは
「プライド」という固い鎧に身を包み、自分が一番だった。
見栄をはり、高級車を乗りまわし、ブランド物で身を包んだ。
休むことは負けることだと思っていた。
小さな命やかよわい命など、はなから眼中になかった。
でも、そんな自分に違和感があって、自分が大嫌いだった。

そんなぼくが、ふと公園のベンチに座った。
草木が芽吹き、小鳥たちが踊る。
公園には「生きる命」が宿っていた。
とりたてて命に興味があるわけでも
生きることに敏感なわけでもなかったが、
心地よさに浸っている自分が不思議だった。

©Kouji Nakagawa

やがて、もうひとつの違和感に気がついた。
命躍る風景のなか、落ち葉に半分埋もれて横たわる猫がいた。
それは白黒の猫で、ちょっと薄汚れていた。
しばらく見ていたが、微動だにしない。
死んでいる―――。
そう感じたときに、心がざわついた。
いてもたってもいられなくなった。

この命躍るなか、たった1匹だけ落ち葉に埋もれて
なぜ息絶えたのだろう。
そう考えると、悲しく、とても不憫に感じた。
それまで、そんな気持ちになったことはなかったのに。
ぼくが、埋めてやらなければと思った。
このまま、活気づく命の中で、
朽ち果てさせるのは忍びないと感じたからだ。

©Kouji Nakagawa

覚悟して近づいてみた。
やはり動かない。
声をかけてみた。
「やあ、元気かい」
それでもやはり動かない。
死んでいる―――。
そう確信したとき、突然彼は動いた。
むくっと起きて、なにごともなかったかのように伸びをした。
唖然としたぼくをじっと見て、猫は「にゃあー」と一言鳴いた。
でもそのとき、ぼくには聞こえたんだ。
「心配しただろ。ぼくだって生きているんだ。
気がついただろう。今まで命を踏みつけて生きてきたことに」
たしかに、そう言われた。
たしかに、そう聞こえた。
そして猫は、ぼくの足にすりっと一度だけ擦り寄って立ち去った。

ぼくと猫の物語は、ここからはじまったんだ。

中川こうじ

2009年10月1日  読売新聞)

中川こうじ

愛知県在住。フォトジャーナリスト。 10年以上紛争地帯でカメラマンとして活躍。たまたま公園で捨て猫に出会ったのをきっかけに、のらねこの写真を撮るようになる。のらねこの保護活動やのらねこ支援サイト「Street Cat's」の運営、写真展などを通じて、命と平和のたいせつさを訴えている。 著書に、『のらねこ。』『のらねこ。〜ちいさな命の物語〜』『StreetCat's 〜のらねこ。写真集〜』(全てエンターブレイン刊)がある。
野良にゃん支援サイト「Street Cat's」 http://www.street7cats.com/


 
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『のらねこ。〜ちいさな命の物語〜』中川こうじ
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『Street Cat's 〜のらねこ。写真集〜』中川こうじ
2009年3月発売
1,260円(税込み)
発行 エンターブレイン
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