プロローグ 〜ストーリーは、ある猫との出会いからはじまった。
ぼくは、なにを思ったのか、あるとき公園に身をおいた。
いつも強がって生きていたぼくは
「プライド」という固い鎧に身を包み、自分が一番だった。
見栄をはり、高級車を乗りまわし、ブランド物で身を包んだ。
休むことは負けることだと思っていた。
小さな命やかよわい命など、はなから眼中になかった。
でも、そんな自分に違和感があって、自分が大嫌いだった。
そんなぼくが、ふと公園のベンチに座った。
草木が芽吹き、小鳥たちが踊る。
公園には「生きる命」が宿っていた。
とりたてて命に興味があるわけでも
生きることに敏感なわけでもなかったが、
心地よさに浸っている自分が不思議だった。
やがて、もうひとつの違和感に気がついた。
命躍る風景のなか、落ち葉に半分埋もれて横たわる猫がいた。
それは白黒の猫で、ちょっと薄汚れていた。
しばらく見ていたが、微動だにしない。
死んでいる―――。
そう感じたときに、心がざわついた。
いてもたってもいられなくなった。
この命躍るなか、たった1匹だけ落ち葉に埋もれて
なぜ息絶えたのだろう。
そう考えると、悲しく、とても不憫に感じた。
それまで、そんな気持ちになったことはなかったのに。
ぼくが、埋めてやらなければと思った。
このまま、活気づく命の中で、
朽ち果てさせるのは忍びないと感じたからだ。
覚悟して近づいてみた。
やはり動かない。
声をかけてみた。
「やあ、元気かい」
それでもやはり動かない。
死んでいる―――。
そう確信したとき、突然彼は動いた。
むくっと起きて、なにごともなかったかのように伸びをした。
唖然としたぼくをじっと見て、猫は「にゃあー」と一言鳴いた。
でもそのとき、ぼくには聞こえたんだ。
「心配しただろ。ぼくだって生きているんだ。
気がついただろう。今まで命を踏みつけて生きてきたことに」
たしかに、そう言われた。
たしかに、そう聞こえた。
そして猫は、ぼくの足にすりっと一度だけ擦り寄って立ち去った。
ぼくと猫の物語は、ここからはじまったんだ。
中川こうじ
中川こうじ
愛知県在住。フォトジャーナリスト。
10年以上紛争地帯でカメラマンとして活躍。たまたま公園で捨て猫に出会ったのをきっかけに、のらねこの写真を撮るようになる。のらねこの保護活動やのらねこ支援サイト「Street Cat's」の運営、写真展などを通じて、命と平和のたいせつさを訴えている。
著書に、『のらねこ。』『のらねこ。〜ちいさな命の物語〜』『StreetCat's 〜のらねこ。写真集〜』(全てエンターブレイン刊)がある。
野良にゃん支援サイト「Street Cat's」 http://www.street7cats.com/
『のらねこ。』中川こうじ 2007年3月発売 1,260円(税込み) 発行 エンターブレイン 発売:角川グループパブリッシング この本を楽天ブックスで |
『のらねこ。〜ちいさな命の物語〜』中川こうじ 2008年4月発売 1,260円(税込み) 発行 エンターブレイン 発売:角川グループパブリッシング この本を楽天ブックスで |
『Street Cat's 〜のらねこ。写真集〜』中川こうじ 2009年3月発売 1,260円(税込み) 発行 エンターブレイン 発売:角川グループパブリッシング この本を楽天ブックスで |
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