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究極の地産地消 地酒の楽しみ

五凛

 こんにちは。酒販店の社長、海外最大規模の日本酒コンクール(IWC London)の議長として、そして同日同会場で行われるサケ・マスター・クラスと称する講演会講師などのコンサルタントとしての仕事の経験を通したグローバル・マーケットの視野での日本酒について、このコラムではまずは楽しく、そして美味しく皆様に伝えて行けたらと思っております。よろしくお願いいたします。

 さて、今回は出張にまつわるお話をさせていただきます。私は仕事柄、日本全国、海外の出張が比較的多い立場にいます。そうした際に地のお酒を楽しむのは大きな一つの楽しみです。というか、総合的に「お酒を楽しむシーンを持つ」のがとても楽しみです。その一つが、「出張の際に地場の地酒を楽しむ」ということなのです。

 皆様に臨場感を持っていただくため、あえて銘柄名を出してお話させていただきます。記憶に新しいシーンでは、昨年末に石川県に講演にうかがった際、地元の「五凛」というお酒をお寿司屋さんで楽しみました。つい数日前にも(決して意図していたわけではないのですが)、静岡県焼津市で、教え子が連れて行ってくれた天麩羅屋さんにて、現地の地酒「磯自慢」という銘柄を見つけて、ついつい杯を重ねてしまいました。

 常日頃からもう少し落ち着いた、のんびりできる時間を取りたいなと思いつつも、こうした喜びを旅先で感じるたびに「日本人に生まれて良かったなぁ!」としみじみと感じます。地元の料理に舌鼓を打つ方は多いでしょうが、日本には全国津々浦々、多くの地酒がそろっています。美味しいお料理と共に、その土地の地酒をもっともっと楽しんでみませんか?

 私は、旅先で楽しみたい「ワイン」をグラスと共に持参することもよくあります。ワイン好きの方はよくこうしたアプローチをなさっているでしょう。実際に、ほとんどのワインは日本産でなく、地元の料理に合いそうなワインを選択して持参します。これは正確に言えば、地産地消とは少々違った楽しみ方となりますよね。

 ここで見方をまるっきり逆にして、外国の方の視点で物を見ることにします。ニューヨーク州に住んでいるビジネスマンが出張でサンフランシスコにやってきました。日ごろ楽しんでいるニューヨーク州のリースリングではなく、カリフォルニアで産するシャルドネやカベルネ・ソーヴィニョンを楽しむこともよくあると思います。日本人が全国を旅する際に楽しむ地酒の例とよく似ていますね。

 前回もこのコラムでお話ししましたが、日本人が海外旅行を楽しむ際、こうしたワイン・ツーリズムを楽しむことがよくあるのです。海外の方々はニューヨーク州からカリフォルニア州に保養で行く際、カリフォルニア・キュイジーヌに合うと思われる日本酒を、ニューヨーク・ソーホー地区にあるようなスーパーで購入して持参するようなことはあるのでしょうか?

 おそらく、まだまだ少数派ではないでしょうか。しかし、世界中のお料理が素材の流通革命によって鮮度が高く保たれ、調理法にも日本の手法を活かした料理が散見されるようになっています。ライトになりつつあるお料理に、私はもっと日本酒を合わせていただきたいと思っています。日本のワインももっと登場してもよいのではないでしょうか。

 弊社の国産ワインの主要取引先の一つに「勝沼醸造」という生産者さんがあります。ここの醸造長の平山繁之さんがよく口にするのですが、甲州ブドウは日本に根付いて既に1000年以上が経過していると言われ、そのブドウから醸す国産ブドウ酒(すなわち日本産ワイン)自体も「和酒」のカテゴリーに属すると。

 非常に面白い意見です。こうした意識が日本のアルコール・シーンで広がりを見せる今、旅行客の方々を迎え入れる機会の多い料飲店の方々の日本酒やワインのリストを作成する観点も、従来とは違ってくるのかもしれませんね。私が子供の時代には、外国人の方に出会う機会は、田舎の栃木の街ではめったになかったものの、今ではちっとも珍しくない時代になっています。それだけ、消費者が変遷をたどっていることになります。間違いなく彼らは「より日本的なもの」を楽しみにやってきているのですから。

 そうした機会によって海外の方々が一人でも多く日本酒の美味しさ、そして楽しさに目覚めて頂き、お気に入りの日本酒とマイお猪口を持参しながら旅をする……そんな時代が来ることを一人の日本人として願っています。(2012年2月5日)

日本酒
銘柄名五凛
日本酒名純米生酒
特定名称純米生酒
生産地石川県
品種山田錦
精米歩合60%
日本酒度+3
小売価格1300円(税別)
生産者車多酒造
【外観】 明るい麦藁色です。
【香り】 全体的に柔らかな香りの構成で芳香性は中程度。カスタード・クリーム様の生酒由来の香り、そしてバナナ様の吟醸香をほのかに漂わせています。お米のスペクトラムも正に蒸し上がったばかりのような香りでありますが、決してそれが前面に主張することもなく、穏やかな印象です。
【味わい】 控えめではありますが全体を柔らかく感じさせる甘味の第一印象、酸味は中程度で後半にはしっかり目の苦味を感じさせます。それがこの味わいを辛口に感じさせるポイントとなっており、ミディアム・ボディ、そして終始一貫として余韻にも香りに感じたフレーヴァーが中程度のインテンシティでたなびきます。
【総評】 今飲んで大変美味しく、しっとりとした艶のある深みを感じさせる生酒です。このフレッシュさを維持したうちに、そして生由来の老香が生成されてくる前に楽しみたいお酒で2ヵ月程度の間に楽しみたい高品質な味わいです。
2012年2月17日  読売新聞)
筆者プロフィル
大橋 健一
(株)山仁酒店の代表取締役社長。リカー・コンサルティング(株)サマーソルト取締役兼プレミアム商品開発室長。WSET LondonのDIPLOMA、(独)酒類総合研究所清酒専門評価者などの資格を有するほか、インターナショナル・ワイン・チャレンジ・ロンドン日本酒部門副議長、ジェニー・チョー・リーMW運営「アジアン・パレット」http://www.asianpalate.com/のエキスパート・パネルなど、世界のワイン、日本酒シーンで活躍する。http://twitter.com/KenichiOhashi/でワインや日本酒のフード・ペアリングを配信。
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