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清酒のルーツ 大和を歩く

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三諸杉・菩提酛純米

 酒好きに聖地があるなら、そのひとつは奈良県桜井市の三輪(みわ)山だろう。山裾(すそ)にある大神(おおみわ)神社は、酒の神様も祀(まつ)る日本最古の神社として知られ、その御神体そのものが三輪山だ。また、三輪山は、三諸(みもろ)山などの別称で呼ばれ、境内の古代杉も御神木となっている。そういう訳で、酒の銘柄名「三諸杉(みむろすぎ)」は、これに因(ちな)む。

 創業が江戸中期へさかのぼる今西酒造は、大神神社の参道からほど近く、古い町屋の残る小路に在った。奈良は清酒の発祥地だけに、この酒蔵が造る「三諸杉・菩提■(ぼだいもと)純米」への興味をつのらせていた。室町時代の後期、現代の酒造りに通じる酒造法が考案され、奈良酒の名で信長や秀吉らの戦国武将を酔わせたという。それと同じ酒材料が使われているなら、きっと味だって似通うはず。などと、勝手な思い込みを秘め、酒蔵の土間に設けられた試飲コーナーで、一献頂いた。

 果たして、昨今慣れ親しんだ淡麗、辛口、口当たりの良さからは遠い。しかし、飲みすすむにつれ舌に馴染(なじ)んでくる。むしろ新鮮な味わいさえ覚えた。脇で、この酒を勧めてくれた蔵の杜氏(とうじ)さんの顔が緩んだ。なんだか一本取られた気がする。三輪の地からは、大和盆地を巻くように古代の道「山の辺の道」が延びている。点在する古墳群や植物を眺め、万葉びとのつもりでハイキングが楽しめる。

 待ち合わせた俳句仲間と合流し、つかの間の息抜きと洒落(しゃれ)たい。無論、背中のザックには、三諸杉の四合瓶(720ミリ・リットル)を忍ばせてある。

吉田 類(酒場詩人)

この一本

「三諸杉・菩提■純米」奈良

 舌にまったりとした甘味を感じ、ピリッと広がる酸味こそ、この酒の持ち味。決め手は清酒のルーツをほうふつとさせる菩提■(酒母)の使用にある。

1800ミリ・リットル 3150円
今西酒造(0744・42・6022)

※■はとりへんに「元」

2006年10月10日  読売新聞)
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