妖精の吐息のような香りこの銘柄名を挙げると、必ず意味を問われる。獺(かわうそ)は捕らえた川魚をきちんと並べ置いてから食べるという。いかにも魚を祭っているようなその光景を指す言葉が、「獺祭(だっさい)」だ。転じて、文人が参考書などを机の周りへ並べて詩作する姿にも見立てている。ちなみに蔵元の住所にも「獺」の文字が入る。 年忘れの酒宴で、東京の高尾山のふもとに在るあずまや風の料理屋を訪ねた。自然の借景をふんだんに取り入れ、じっくりと日本酒の味を利くに相応(ふさわ)しいロケーション。他の銘柄に混じってこの一本があり、酒の銘柄へのこだわりを持たない彼らが、皆神妙な面持ちだ。 これを初めて口にした一人が、「葛の花みたいな香り」と評した。しかし、居合わせた面々のほとんどが都心住まいで、その香りに馴染(なじ)みがない。それでも、おおむね強すぎない香りに魅せられたようだ。もちろん語源にも話題が及ぶ。と、俳句をたしなむ青年メンバーが、おもむろに語り始めた。「唐代の詩人に倣(なら)い、正岡子規も雅号に『獺祭書屋主人』を名乗っていますよ」。宴にこの種のうんちくは避けられなかった。 酒に話を戻すと、獺祭に対する参加者の評価が断然高い。誰もが躊躇(ちゅうちょ)なく推した。何度となく利き酒会を経験してきたけれど、4、5種類の酒が揃(そろ)っただけでも、好みは必ず分かれた。 ところで故事に、「川獺(かわうそ)の祭」は正月をその季節とする、とあった。少々、この銘柄をとりあげるタイミングが良すぎただろうか。 吉田 類(酒場詩人) この一本「獺祭 純米大吟醸・磨き三割九分」(山口)磨きこんだ吟醸香は、果実か野花の妖精の吐息。軽やかな含み感のあと、やや辛口にキレて行く。空気に触れさせるほど、爽(さわ)やかさが増す。 720ミリ・リットル 2350円 (2007年1月9日 読売新聞)
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