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『番犬は庭を守る』 岩井俊二さん

未来への希望紡ぐ

 「スワロウテイル」「リリイ・シュシュのすべて」などで知られる映画監督が11年ぶりに小説を出した。

 廃炉になった原子力発電所の警備員が主人公と聞けば東日本大震災を思わずにいられないが、書き始めたのは10年以上前。JCO臨界事故や問題になっていた環境ホルモンなどについて考えるうち、「文明が()す弊害を無視できない」と執筆を思い立ち、2年がかりでほぼ完成させた。しかし、映画化が実現せず、別の作品を撮るうちに出版は延び延びに。そして訪れた3・11――。

 米国に滞在中、日本のスタッフと電話で話している時に地震は起きた。「もう少し早く小説を出し、警告を発してこなかったことを申し訳なく思った」。来年で50歳。年下の世代に対する責任を強く感じた。

 物語の舞台は、貧富の差が拡大した近未来。金持ちは寿命を延ばすために新鮮な臓器を買って移植を繰り返す一方、貧しい者は子供を持つことすら難しい。貧しい警備員のウマソーは大事なものを次々と奪われるが、それでも廃虚になった原発を独り守り続ける。

 「こんな未来であってほしくないが、そうなる危険性も感じてしまう。でも生き物は弱いようで案外強いから、未来が完全になくなるわけではない」

 悲惨な状況でも人間は生き、未来を紡ぎ出さねばならない。希望を託すのは、生まれ来る子供たちだ。

 「自分個人では、決して幸せな人生ではないかもしれない。でも、子供から子供へと、そういう人生が幾重にも連なっていくことは、見方によっては幸せかもしれない。そこに希望を見たい」

 この人にとっては小説も映画も、自らの遺伝子を受け継いだ〈希望〉という名の子供なのだろう。(幻冬舎、1400円・多葉田聡)

◆次回は『世界で勝負する仕事術』(幻冬舎新書)の竹内健さんです

2012年2月21日  読売新聞)

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