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『巴里の空の下 オムレツのにおいは流れる』 石井好子著

込み上げる食欲と切なさ

 料理エッセーは今や花盛りだが、本書はその先駆け。歌手として戦後シャンソン界を引っ張り、2010年に亡くなった著者は随筆の名手でもあった。

 「あなたは食いしん坊だから、きっとおいしそうな文章が書けるよ」。「暮しの手帖」名物編集長、花森安治の勧めでペンをとり、公演旅行で訪れた欧米各地のごちそうを紹介した。

 高級料理ばかりではない。下宿先のロシア夫人お得意の「バタたっぷりオムレツ」。寒い夜、舞台がはねてから歌手仲間とほおばる熱々のグラティネ。あー、おいしそう。食卓での会話、店の窓から見えた風景など人生の哀歓もさりげなくちりばめられて、食欲と共に切なさも込み上げる。

 料理上手のおもてなし名人だったが、すいせんの根をタマネギと間違え、父と弟がおなかをこわした(!)ことも。若い頃の失敗談には励まされる。

 「お料理はなんのきまりもないのだから、自信をもってまな板に向かうこと」。あり合わせ食材でも、心がこもっていれば最高のごちそう。オムレツ、久しぶりに焼いてみようかな。(恵)

 単行本は1963年、暮しの手帖社刊。2011年刊の河出文庫版は4刷3万5000部。

2012年2月29日  読売新聞)

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