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『海を渡る蝶』 松永高寛写真集

 柳田国男の遺著『海上の道』は風の話で始まる。

 渡海の船を安らかに港に迎えさせ、珍しい品々を(なぎさ)に吹き寄せる風。その中に人間ならぬ(ちょう)がいたなら、その目に日本という国はどのように映っただろう。

 島から島へ渡る蝶の目線で日本を見てみたい――そんな序文が置かれた写真集である。五島列島や奄美大島の教会に始まり、かつて戦火の中にあった南島の自然や穏やかな浜を経て、日本海沿いの雪景色へカメラは移動する。さらに終盤は転調し、重厚な樹皮の接写が続く。撮影地は広島。実は被爆樹であるらしい。

 海からの恵みの一方で、日本の対外交渉史はしばしば苛烈でもあった。その時間の厚みが畳み込まれた光景を、写真家は静かに見つめる。蝶のようなとらわれない移動と、無心の目によって。息絶えた蝶のむくろで幕を下ろす本写真集は、荘重な余韻を残す。(蒼穹舎=(電)03・3358・3974、4600円)(前)

2012年2月13日  読売新聞)

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