学生確保「世界基準」で
東大が秋入学を検討
イラスト・スパイスコミニケーションズ(田川滋)
日本では入学式は4月、桜の咲く春に行われます。しかし世界では、多くの国で入学は秋がふつうになっています。そこで東京大学では5年後の新入学生から、入学の時期を秋に変えようとしています。将来は日本でも秋入学がふつうになるかもしれません。
アメリカやイギリス、中国など、世界の主な国々では、入学時期を秋にしている大学が多く、日本のように春に入学式があって新学期が始まる国は少数です。
少ない留学生
外国の大学と新入学時期が異なっていると、学生の行き来が難しくなります。東大生が「海外に留学したい」と思っても、その国の新学期が秋なら半年待たなければなりません。逆に、海外で学ぶ優秀な学生が東大に留学しようと考えても、やはり半年待つことになります。このようなずれが壁となって、東大は外国の大学に比べて、留学生が少なくなっているといいます。
日本ではトップクラスの学生が集まる東大ですが、イギリスの情報会社が作った世界の大学ランキングでは25位どまりで、同じアジアの香港大よりも評価が低くなっています。
その理由は、外国の大学は高い研究水準を保ち続けるために、ほかの国から優秀な学生をどんどん集めているのに対して、東大は後れを取っているからだと言われています。
そこで、東大も秋入学にして世界の優秀な学生を獲得し、大学のレベルを上げようとしているのです。日本の企業も、「世界で活躍できる学生を育ててほしい」と求めています。
ただし、秋入学を始める場合は、解決しなければならない問題がたくさんあります。
空白期間が課題
東大は秋入学にしてからも入学試験は今とかわらず冬に行う予定です。そうすると、合格してから入学まで半年の空白期間が生じてしまいます。
東大は、その半年間を活用して、短期留学やボランティア、仕事を体験する「インターンシップ」など、様々な経験を積んでもらおうと考えています。大学に入学してからはなかなかできない体験をすることで、より広い世界を知り、学生に大きく成長してもらうことが狙いです。
秋入学になったら、卒業も夏になって、就職までに半年空いてしまう問題もあります。日本の多くの企業は現在、「3月に卒業する学生を4月に入社させる」という方針で社員を採用しています。夏に卒業すると、こうした企業のスケジュールに合わず、就職活動で不利になる恐れがあります。医師や公務員になるための試験や司法試験なども、大学生が春に入学して春に卒業することを考えて日程が決まっています。
大学の入学時期が変われば、小中高校の教育にも影響が及ぶなど、国内では様々な問題が心配されています。
しかし、これからは世界に目を向けていかなければならないとして、東大は秋入学に本気で取り組むつもりです。実現には社会全体の協力が必要なので、ほかの大学や企業などにも加わってもらって、よりよい方法を検討していくことにしています。
(2012年1月31日 読売新聞)