日本の土地 中国から守る
東京都が尖閣諸島購入へ
イラスト・スパイスコミニケーションズ(ごみかわ淳)
東京都の石原慎太郎知事が、沖縄県石垣市にある尖閣諸島と呼ばれる無人島を「東京都で買うことにしました」と発表し、大きな注目を集めました。尖閣諸島は東京から1900キロ・メートルも離れています。石原知事はなぜ、遠く離れた島を買おうとするのでしょう。
沖縄沖の無人島
尖閣諸島は、沖縄本島の西約410キロの所にある五つの無人島です。魚釣島と呼ばれる島には、戦前、カツオ節の製造工場があり、一番多い時には約250人の日本人が住んでいました。1940年ごろには人がいなくなりましたが、日本人にとって、この島々が日本の土地であることは当たり前のことでした。
しかし、60年代の終わりごろ、尖閣諸島の近くの海の底には、石油や天然ガスなどの資源がたくさんあることが分かりました。すると71年、中国や台湾が突然、「自分たちの島だ」と言い始め、勝手に上陸して旗を立てるなどしてトラブルが始まったのです。
2010年には、尖閣諸島の近くの海で、法律を破って漁をしていたらしい中国漁船が、日本の海上保安庁の巡視船に体当たりする事件が起きました。海上保安庁は船長を逮捕しましたが、日本政府は中国との関係が悪くなるのを心配して、裁判にかけずに、船長を中国に帰してしまいました。以前から石原知事は、「こんな弱腰では、いずれ尖閣諸島を中国に取られてしまう」と不安に思い、自分の手で何とかしなければならない、と考えていたようです。
尖閣諸島には、魚釣島と、大正島、北小島、南小島、久場島という五つの島があります。このうち、大正島は国が所有していますが、残る四つは民間人の土地で、国が借りて管理しています。
東京都が買おうとしているのは、埼玉県内の男性が所有している魚釣島と北小島、南小島の三つの島です。「本当は国が買い上げたらいいが、びくびくしてやらない。都が尖閣諸島を守る」というのが石原知事の考え方です。都には多くの意見が寄せられていて、そのほとんどが賛成だといいます。
数々のハードル
ただ、本当に買うまでには、いくつもハードルがあります。都民の税金を使って買うなら、「尖閣諸島は都民のためになる」ということをはっきり示す必要があります。石原知事は「漁業資源の開発をやったらいい」と言っていますが、「島を買っても都民の暮らしには役に立たない」という意見の人もいます。
また、ある程度まとまった土地を都が買う場合は、最後は都民の代表が集まる都議会で、多数決で「買っていい」と決めてもらわなければなりません。その代表の多くはまだ態度を決めておらず、大勢が賛成するかどうかはよく分かりません。
石原知事の発言で、国側にも動きが出始めました。「本来は国が買うべきだ」という意見も、政府の中から聞こえてきます。都が買うのか、それとも国が買うのか。都が買う場合は、どんな目的で、何に使うのか。議論しなければならないことは、たくさんありそうです。
(2012年5月1日 読売新聞)