淡々としていて印象は鮮烈
『罪悪』 フェルディナント・フォン・シーラッハ
(東京創元社、1800円、酒寄進一訳)
昨年日本でも紹介された処女作『犯罪』で高評価を得た、現役弁護士・シーラッハの2冊目。今回も15編を収録した短編集で、独特の味わいは健在です。
ある犯罪で、19年後に裁かれることになった夫婦の運命(『遺伝子』)、夫の暴力に耐え続けた女性に起きるある出来事(『清算』)、残忍な仕返しを企てた若者が、決行直前、車を降りた瞬間にほかの車にはねられて死んでしまう話(『解剖学』)など、短くも鮮烈な印象を残す作品ばかり。
個人的には、冒頭の『ふるさと祭り』が印象深いですね。シーラッハ本人らしき人物が登場、若き弁護士の苦悩をうかがわせる深い作品になっています。
実はシーラッハの作品は、エンターテインメント性を重視した小説を紹介するこのコーナーでは、取り上げにくい。ひねったストーリーもしゃれた会話もなく、事件の流れが語られるだけで、エンタメのお約束を無視しています。本作は、『犯罪』より多少物語性がある感じですが、やはり淡々とした印象は変わりません。
日本でいえば、「小説現代」(エンタメ誌ですね)ではなく「群像」(こちらは純文学)に載ってもおかしくない感じ。もっとも、難解で分かりづらいかといえばそんなこともなく、読み終えた後は、心の中に喜怒哀楽が湧き立ちます。
弁護士といえば「法廷小説」。このジャンルは傑作の宝庫です。古くはガードナーの「ペリイ・メイスン」シリーズ、最近ならジョン・グリシャムとか。裁判は論理と論理のぶつかり合いで、知的ゲームの側面がある一方、人間臭い要素が混じるのが魅力なんですが、シーラッハはそもそも、法廷シーンをあまり書かない。
だいたい、小説というより、警察の調書とか「犯罪実話」っぽいんですね。そこが、これまでにない魅力でもあるのですが……うーん、分析しにくいなあ。
様々な犯罪、裁判を通して、罪の意味を考える。最短3ページ、全15編を収録。
まったく新しいミステリー。マイナス8点の理由=わくわく感を求めると失望します。
堂場瞬一:1963年生まれ。警察、スポーツ小説で活躍。代表作に「刑事・鳴沢了」「警視庁失踪課・高城賢吾」シリーズ。
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