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『星の文化史事典』 出雲晶子編著

評・池谷裕二(脳研究者・東京大准教授)

 理系男子にありがちだが、私も幼少の頃、宇宙に()かれた。神秘に憧れ、天体望遠鏡をのぞき、底知れぬ浮遊感にとことん身を委ねた。

 科学の進んだ現代でさえ宇宙は神秘だ。古代の人々には天空はどんなふうに映ったのだろう。そんな朴直な疑問に本書は答えてくれる。天文にまつわる世界中の信仰や民俗を紹介する全419ページは珠玉の宝箱だ。

 天の川は日本語では「川」だが、英語では乳だ。インドネシアでは蛇、インドでは象の通り道。米先住民では蒸気だったり穀物粉だったりする。

 月面の文様も時代や地域によって解釈がちがう。しかし、ウサギがいるという伝承は、遠くインドやメキシコの古代神話にもあるという。

 万葉集や枕草子にも登場する「(すばる)」。この語源は――などなど、次々に好奇心が刺激され、ページをめくる手が止まらない。

 同時に、渺茫(びょうぼう)たる宇宙空間の片隅で、いま自分がここで呼吸をしている奇跡が、じわじわと不思議になるのだ。

 民話や伝説も多く収録され心が踊る。しばらく枕元に置いておこう。いい夢が見られそうだ。(白水社、3800円)

2012年5月1日  読売新聞)

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