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ロンドン取材班おっかけ日記

マラソンは自分の人生 野口みずきが新たな挑戦誓う

涙の理由は

 「まだやめません」

 名古屋ウィメンズマラソン後の会見で野口みずきはきっぱりと言った。

名古屋ウィメンズマラソン・6位に終わり悔しそうにゴール後、口を押さえて悔しがる野口(3月11日、ナゴヤドームで)=多田貫司撮影

 およそ4年半ぶりのレースで2時間25分33秒の6位。昨年8月からようやく練習をするようになった中での記録に「まだまだやれる」と新たな手ごたえをつかんだという。

 マラソンのスタートラインに立つとき、野口の頭の中はいつも真っ白だ。無心でレースに臨み、42.195キロを一気に駆け抜ける。そこには邪念が一切ない。

 今回のレースもスタートラインに立った時、頭の中は真っ白だったという。だが、気持ちの片隅には「不安半分、ワクワク感も半分」で緊張感も入り交じっていた。

 北京五輪を欠場し、左ひざの故障と闘いながら過ごした日々。久々のレースに全く不安を感じないわけがない。万全ではない左足のことを思いながらの走りに、完走できるかどうかさえ疑問に思えることもあったのではないか?

 案の定、17キロ過ぎで左膝が抜けるような感覚に襲われた。「力が入らないような気がして」100メートル以上離された。踏んでも踏んでも、足の支えが利かない膝の感覚。アスリート、とりわけランナーにとっては最悪の状況だ。「もっと力を込めても大丈夫なのか? どこかのタイミングで膝が壊れるか?」。そんな不安が野口の頭にも一瞬横切ったことだろう。

 しかし20キロ以降の展開を振り返って野口は「後半の方が体が動いてきた。足が動けている気持ちがした」と話している。

 膝の神経に感覚がもどり、足がいうことを聞くようになってきた。体にもキレが出てきた。「絶対にあきらめない。絶対に負けない」。その強い思いが野口の体に魂を吹き込んだ。

記者会見で涙を流す野口(3月11日、ナゴヤドームで)=多田貫司撮影

 「本当にあきらめなくてよかった。私は距離が長ければ長いほど後半に頑張れる」

 距離が延びるほど、後半になればなるほど体に力がわいてくる。まさにマラソンをするために生まれて来た、マラソンの申し子ともいえる野口の言葉だ。

 野口はゴールの際に涙を流した。会見でも涙を流した。

 「走りきれて本当によかった。五輪を逃した悔しさよりも、ここに帰ってこれてよかったという安心感が大きい」とゴール後の率直な感想。

 大きな不安と重圧から解き放たれたゆったりとした表情で、落ち着いて言葉を選びながら回想した。

 五輪代表に選ばれた選手へは「最高の舞台で緊張せず思いっきりパフォーマンスしてほしい。そして思う存分楽しんで」とエールを送る。

 その楽しさ、快感を知っているのが野口。「マラソンレースの走りは、自分の人生」と言い切る。決してあきらめず、何度転んでも立ち上がる不屈の精神こそ、持って生まれた強い性格だ。

 「今回のレースは、自分のマラソン人生における新しいステージへの第一歩。練習を積めば自己ベストも更新できる。4年後のリオデジャネイロ五輪も狙いたい」と力強い。

 今回の結果を前向きにとらえ、新たな目標へ挑戦する不死鳥にエールを送りたい。「頑張れ野口!」(メディア戦略局ロンドン五輪取材班 高野一)

2012年3月14日  読売新聞)

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