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書評


評・管啓次郎(詩人・比較文学者・明治大教授) 津波から一年余が経過した春の三陸沿岸部を車で走ってきた。海岸線の道は曲がりくねり波打ち新緑と海の青のあいだを美しくつづく。湾ごとに、入江ごとに、町があり集落があり、その大きな部分が途方もない破壊をこうむっている。志津川、雄勝、女川。()まっては黙し、海と空にむかって掌を合わせるばかりだった。 (6月18日)[全文へ]


評・松山 巖(評論家・作家) 「Kのことを書く。Kとは、ぼくの死んだ配偶者で、本名を桂子といった」。この一節が(ほん)(ぺん)の書き出しだが、作者はすぐに次の断りを入れる。「たしかに夫婦でありいっしょに暮したのだが、つまるところ、ぼくには、この人がよくわからなかった。共同生活者であったが、彼女はいつもぼくを立ち入らせないところがあって、ぼくは困った」、「Kは七十二年の生涯で、福井桂子名義の詩集を合計七冊書いた。死因は発見が遅れた(がん)である」と。 (6月18日)[全文へ]


評・橋本五郎(本社特別編集委員) 卓抜な「書き出し」である。死者・行方不明者10万5000人に及んだ関東大震災に「希望」を見いだす人と「絶望」を覚える人がいた。それぞれの代表が、譲り合いと相互協力の姿に希望を託した芥川龍之介であり、貧しき者がさらに苦しむことに怒りを覚え「革命」に()かれた清水幾太郎である。この書き出しで読者は一気に「戦前昭和」に引き込まれる。 (6月18日)[全文へ]


評・小泉今日子(女優) 1981年、私は高校一年生だった。もう子供じゃないけれど、まだ大人でもない。勉強が嫌いで遊んでばかりいた劣等生だったけれど、心も身体もエネルギーに満ちていて何をしていてもゲラゲラ笑えるほどに楽しかった。でも本当は気付いていた。いつか大人にならなきゃならないということに。それは、遠くの空に浮かんでいる大きな黒雲が少しずつ自分のいる場所に近づいてくるような恐ろしいイメージだった。 (6月18日)[全文へ]


評・畠山重篤(カキ養殖業) 本書を開いていると昆虫オタクの孫たちがやってきた。木の葉を切り取っているアリの写真を見て、“これハキリアリでしょう、テレビで見たことがある”と歓声をあげた。 (6月18日)[全文へ]


評・細谷雄一(国際政治学者・慶応大教授) 「科挙制度の長い歴史を有する中国において職業外交官はいかにして誕生したのか」。本書はこの問いに答えることを目的とする。近代中国外交を理解する上で、はたして中国独自の歴史的伝統と、制度的な近代性とのいずれを重視すべきだろうか。なぜ歴史的伝統の重みを持った中国で、職業外交官は誕生したのか。 (6月18日)[全文へ]


評・池谷裕二(脳研究者・東京大准教授) カラヤンが好きだ――いや、わかっている、クラシック愛好歴30年のマニアとして少々恥ずかしい発言なのは。存在が大きすぎる。存命中はこの絶対巨匠を否定することがステイタスという風潮さえあった。影響の全貌を捉えるにはまだ早いのか、没後20年()っても世評が定まらない。 (6月18日)[全文へ]


評・朝吹真理子(作家) 本書は書名通り、われわれが普段使っている現代の言葉からそれに対応する古語を引くことができる。用例と出典だけが記載されているシンプルなつくりであるが、補注や付録、解説など充実している。 (6月18日)[全文へ]


評・角田光代(作家) 小説の中心にいるのは三人の小学生。両親がおらず、風俗店勤務の姉と暮らす梅田、父親がおらず、母親がスナックを営んでいる、歌のうまい松岡。ボクシングジムに通う母親のいない竹村。先生からは嫌われ、クラスメイトからは黙殺されている三人組だが、次々と彼らなりの遊びを見つけ出しては本気で熱中する。大人たちはそんな彼らにかまうことなく、それぞれ勝手に生きている。梅田の姉の天真爛漫(てんしんらんまん)さが、夏の日射しのように小説に降り注いでいる。 (6月18日)[全文へ]


評・三浦佑之(古代文学研究者・立正大教授) 大地の誕生から語り出される神々の物語と、高天(たかま)(はら)から降りてきた神の子孫とされる天皇たちの事績とを伝える現存最古の歴史書、今年はその『古事記』が編纂(へんさん)1300年だというので、新聞各紙をはじめ学術誌も商業誌も工夫をこらした『古事記』特集を組んで(にぎ)わっている。 (6月11日)[全文へ]


評・池谷裕二(脳研究者・東京大准教授) 10年前に海外留学を経験して以来、日本人としての自分を強く自覚するようになった。 (6月11日)[全文へ]


評・管啓次郎(詩人・比較文学者・明治大教授) 風の(あしうら)をもつ男、というと19世紀フランスの天才詩人ランボーの渾名(あだな)だったが、今ではこの表現はよく歩く人をさして決まり文句のように使われる。 (6月11日)[全文へ]


評・尾崎真理子(本社編集委員) クレジットカードの登場は1950年。今では収入以上の買い物も30年の住宅ローンも、個人の裁量。日本を含む多くの国の政府が、未来に負債を負いながら現状をしのぐ。 (6月11日)[全文へ]


評・岡田温司(西洋美術史家・京都大教授) 何よりもまず美しい装いの本である。それはまさに本書が(ささ)げられた主人公にこそ似つかわしい。 (6月11日)[全文へ]


評・中島隆信(経済学者・慶応大教授) 貧困からの脱却は長年にわたって経済学に突きつけられてきた至上命令のひとつである。 (6月11日)[全文へ]


評・杉山正明(ユーラシア史家・京都大教授) ロシアもしくはロシア帝国を考えることは、評者にとって久しく重い課題だった。 (6月11日)[全文へ]


評・湯本香樹実(作家) 小学生の頃、「勉強する気になれないときは、まず鉛筆を削ってみましょう」と雑誌で読み、削りに削った。おかげで、ナイフを使って上手に鉛筆を削れるようになった。 (6月11日)[全文へ]


評・星野博美(ノンフィクション作家・写真家) 緑に囲まれ、設立されたばかりの鳥取環境大学。動物行動学が専門の著者は授業中、思いつきで学生に向かい「キャンパスでヤギを飼ってみてはどうですか」と話す。そして授業が終わった数分後、ヤギ部が誕生したのである。 (6月11日)[全文へ]


評・ロバートキャンベル(日本文学研究者・東京大教授) かつて、と言っても五〇年ほど前のことだからわりあい最近、日本では小説と並ぶように戯曲もふつうに読まれていた。 (6月4日)[全文へ]


評・角田光代(作家) もしあなたが熱心な吉田修一読者であるならば、読みはじめてすぐ、これまで読んできた作品と本作の違いに大いに驚き、けれどすぐに作者がだれかということなどすっぱり忘れて、小説世界に入りこむだろう。私はそうだった。 (6月4日)[全文へ]

著者来店


 「週刊文春」で2006年から連載してきた「読書日記」をまとめた書評集。「僕のは書評じゃない。本を入り口にして、読者と楽しい世界を共有しているだけ」と謙遜するが、ベッドの両脇には本が高く積まれ、「近くにないと不安になる」ほどの本の虫。長い人生経験に、様々な人物を演じてきた俳優ならではの人間観察が加味された味わい深い文章が並ぶ。 (6月19日)[全文へ]

『日本民謡事典』の長田暁二さん

コラム

HONライン倶楽部


 環境問題、高齢化社会、女性と家族……。旺盛な好奇心で問題作を次々と発表しながら、有吉佐和子さんは53歳で急逝しました。しかし、その作品は古びるどころか、ますます現代性を帯びています。 (6月5日)[全文へ]

高峰秀子特集

空想書店


 私の本好きは、根っからというより、致し方なく、なのです。 (6月19日)[全文へ]

ポケットに1冊


 随筆家の佐々木久子が約30年にわたって編集長を務めた「酒」は、火野葦平や檀一雄らそうそうたる作家が応援した雑誌だ。掲載されたエッセーから、昭和の作家を中心に38編をまとめた。 (6月20日)[全文へ]

コミック・マガジン

マンガは僕の友達だった


 「課長の椅子を用意した」。大手電機メーカー「初芝電器産業」の島係長は、突然、上司にそう告げられる。34歳での昇進は、同期のなかでも早いほう。昇進は3か月後、その間「とりあえず公私ともに大過なくすごさねば」と、はやる気持ちを抑える。だが、うれしさは隠せない、思わずガッツポーズらしきものも出るほど。 (6月14日)[全文へ]

本こども堂

子どもたちへ


もりうちすみこさん 56 霊媒師は、亡霊(ぼうれい)と対話をして、様々なことを解決(かいけつ)するとされる人たちです。ある日、突然(とつぜん)、亡霊が見えるようになった女の子が、ちょっと(こわ)い出来事に()()まれる「ある日とつぜん、霊媒師」シリーズ(朔北社(さくほくしゃ))の第2(かん)恐怖(きょうふ)の空き家』が出版(しゅっぱん)されました。 (6月19日)[全文へ]




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編集者が選ぶ2011年海外ミステリー

海外ミステリーが傑作揃いだった2011年。各社担当編集者のベスト5を紹介します。

連載・企画

海外ミステリー応援隊【番外編】 2011年総括座談会
世界の長・短編大豊作…やはり新作「007」、「犯罪」不思議な味、北欧モノ健在(11月29日)

読書委員が選ぶ「震災後」の一冊

東日本大震災後の今だからこそ読みたい本20冊を被災3県の学校などに寄贈するプロジェクト

読売文学賞

読売文学賞の人びと
第63回受賞者にインタビュー

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