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小町さん
小町さんが聞く

結婚式という非日常 「書かなければもったいない」 作家・辻村深月さん

 高級ホテルの結婚式場で、同じ日に挙式することになった4組のカップル。新郎新婦それぞれの秘密や企てが相互に連鎖しあい、家族やウエディングプランナーも巻き込んで思わぬ事態に発展していく――。“パニック・エンターテインメント長編”と名づけられた小説「本日は大安なり」が、1月からテレビドラマで放映中です。作家の辻村深月さんに、小町さんが作品への思いを聞きました。

 Q 小説がドラマで放映されていますが、どうご覧になっていますか。

 A 結婚式というのはたくさんの人がかかわり、いろいろな組み合わせの妙によって成り立っている場所だと、小説執筆中、常に感じていたのですが、ドラマもまさにそんな場だと思いました。原作を下敷きに、監督、脚本、キャストやスタッフ、この組み合わせでなければ実現しない素晴らしいものになっていて、毎回、一人の視聴者としてとても楽しみにしています。

 Q 結婚式をテーマに選んだ狙いは。

 A 20歳代後半から30歳を過ぎた一昨年まで結婚式ラッシュだったんです。いろいろな結婚式に出席していて気がついたのは、友人や親族のほかにも、ずっと会っていない恩師など様々な人が集まる中、自分たちが主役のドラマがいくつも展開されている。ひとつの建物の中で何組も結婚式が行われていて、しかも、たった一日のことなのに、平均300万円も挙式費用をかけるともいわれている。本当に非日常だなと思ったんです。何かきっと意に沿わないトラブルがでてきたり、あるいはうれしいサプライズがあったり、「場の流れ」みたいなものが起こりうるんじゃないかと。そんな結婚式をまだだれも書いていないなら、書かなければもったいない気がしたんです。

 Q ブライダルプランナーがキーパーソンになっていますね。

 A 結婚式って必ずしも全員が祝福ムードで来ているわけじゃないと思うんですね。でも、どんな時にも、新郎新婦に祝福の気持ちを持たなければならない人はだれだろうと思ったら、それはプランナーじゃないかと思ったので、プランナーの目線をとってみようと思いました。

 Q 実際にプランナーに話を聞いたりしたのですか。

 A 友達の式に出て、プランナー目線で見てみたり、元ウエディングプランナーだったという方から、ウエディング・フェアはどういうふうにやるのか、という話を聞いたりしました。また、結婚した友人たちから、「当日こうだったけど、本当はこうして欲しかった」とか、「こんなことがあって、裏で私はちょっとあせっていた」という話もありました。小説にも書いた通り、初めはあまり式に対して希望がなかったとしても、打ち合わせをしているうちにだんだんその気になってきて、理不尽な要求がでてきたりすることもあると思うんです。そういう客に対して、夢の中の住人のような感じで接するプランナーさんってこういう感じかな、と考えて組み立てていきました。

 Q 平均300万円といわれる挙式費用を、ホテル側が「価値観は植え付ける」と断言する場面が印象的でした。

 A そうなんですよね。結婚式はこだわり始めると価値観がぶれていくというか、あとになってから考えてみると、たった1日のことなのに、お財布のヒモがゆるくなっていたなと。思い出に残ってそれはそれでいいんですけど、友達も子供ができて生活感が出てくると、「あの時の夢のような感じはなんだったんだろう」と思ったりしているみたいで、おもしろいです。

登場人物たちが、思いがけず語りだしてくれる

 Q 今回は、ミステリーですが、どうやってアイデアを練るのですか。

 A ミステリーの要素があるものを書いている人間にあるまじきことなんですけど、結構いきあたりばったりなんですよ。書きながら考えていく。どうなっていくんだろうと思って書き進めながら、こことあそこがつながっていたら楽しそうだとか、この人をあの人が助けにきたらすごくいいとか、そういうことが連鎖のように起こってくることが多かったです。

 Q 連鎖なんですか。

 A 今回は群像劇ですが、たくさん人がいるからこそ、いろいろな連鎖が起こってくれました。最初は「本日は大安なり」というタイトルも、意地悪な意味でつけたんです。順風満帆なタイトルなのに、問題が次々と起こる、と考えていたんですけど、実際に書いていったら、すべてがそのタイトルに集約されていくような感じで。登場人物たちがクライマックスにきて、「結婚式にお金をかけるとはどういうことか」とか、結婚式の意味とか、思いがけず語りだしてくれました。

 Q それも、「結婚ラッシュ」の経験があったからこそ出てきたのでしょうね。

 A もし20歳代の結婚ラッシュ真っ只中に書いていたら、「みんな幸せに」という感じのストーリーになっていたと思います。でも、結婚式って本当に入り口にすぎないというのが、ラッシュが落ち着いた今になって分かってきました。人生の節目節目にある冠婚葬祭って本当におもしろい。そこが分かったから、含みを持たせるような文章も出てくるようになったんだなと思います。

 Q 今回の作品は、今の辻村さんの年齢だから生まれたのですね。

 A 毎回毎回書いてきたものを振り返ると、この年齢で書いたから、この話はこういう結論になったな、と感じることが多くて、同じテーマをとっても、40歳代、50歳代の自分は違う書き方をするかもしれないなと感じるようになってきました。もう少し年をとると、家族を中心とした小説になってくるだろうと思います。なので、価値観が変わった後の自分が見たら、今書いているものが、若いな、分かってないな、みたいに思う時がくるだろうなと思っています。だからこそ今のうちに書いておかなきゃならないし、この先、自分がテーマをどういうふうに捉えなおして書いていくのかなというのがすごく楽しみですね。

 Q また年代ごとの辻村さんの作品が楽しみです。ありがとうございました!

2012年1月20日  読売新聞)

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