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loach 「ドジョウ宰相」の評判

野田佳彦氏

 日本の新しい首相に就任した野田佳彦氏。欧米のメディアの注目点の一つは、泥臭く進んでいく「ドジョウ(loach)の政治」を訴えた民主党代表選の演説でした。

 主要メディア(ネット版)にはこんな見出しが並びました。

 The Loach Approach: Noda Makes Bid for Top Job

  ドジョウ流のアプローチ:野田氏、首相就任へ(米紙ウォール・ストリート・ジャーナル)

 Japan: sifting through the muck

  日本、泥の中に分け入っていく(英紙ガーディアン)

 フランスの無料日刊紙 20 Minutes (「20分」の意味)はもっとストレートな見出しをつけています。

 Un Loche Devient Premier Ministre

  ドジョウが首相になった

 (英語に訳すと、A Loach Becomes Prime Minister となります)

 ドジョウは欧米の読者にとって、なじみのある魚ではないようで、記事の中でも様々な説明がついています。

 an eel-like fish often found in Japanese rice paddies

  日本の水田でよく見かけるウナギのような魚

 an unattractive, whiskered fish known for its scavenging techniques

  魅力的とは言えない、ヒゲを持つ魚。何でもあさって食べる技術で知られるなどと説明しています。

 自らの魅力や長所は誇張してでもアピールするのが当たり前の欧米社会。まして政治家は弱みをめったに見せようとしません。そんな彼らの目から見ると、日本の指導者の座を争う場で、自身をドジョウにたとえ、「金魚(goldfish)のまねはできない」「ルックスはこの通り」「私が総理になっても支持率はすぐ上がらない」と謙遜してみせた演説は新鮮に映ったようです。

 ウォール・ストリート・ジャーナルは次のように伝えています。

 「modesty(謙遜、慎み深さ)を重んじる国においてさえ異例と言える戦略で、野田氏は党代表選を戦った」

 こうした modesty は時として行き過ぎた自己卑下や卑屈な態度とみなされ、逆効果になります。しかし、今回の演説はおおむね好意的に受け止められたようです。

 例えば、英誌エコノミストは次のように評しました。

 He has a healty sense of crisis, and a nicely self-deprecating sense of
humor

  彼には健全な危機感覚と、上手にへりくだってみせるユーモア感覚がある。

 欧米のメディアのこうした反応には二つの理由があるように思います。

 一つは、日本が直面している数々の難題を見れば、大口をたたけるような状況にはない、謙虚にならざるをえない、という認識でしょう。

 もう一つは、財政危機など日本と共通の課題を抱えながら、格好をつけ、口ばかり達者で、有効な対策を打ち出せずにいる自国の指導者へのいらだちだと思います。

 ウォール・ストリート・ジャーナルは、「中庸」の政治を説き、自らを「凡人」と称する野田氏の語録を紹介しながら、皮肉を込めて、次にように書いています。

 Try to imagine these words coming from any leading American politicians
over next year.

  (大統領選のある)来年にかけ、アメリカの政治指導者たちからこうした(謙虚な)言葉を聞くことなど想像できるだろうか。

筆者プロフィル

大塚 隆一
1954年生まれ。長野県出身。1981年に読売新聞社に入社し、浦和支局、科学部、ジュネーブ支局、ニューヨーク支局長、アメリカ総局長、国際部長などを経て2009年から編集委員。国際関係や科学技術、IT、環境、核問題などを担当
2011年8月30日  読売新聞)

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