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great convergence 中国が米国に追いつく日

 経済の分野でこの数年よく使われているバズワードの一つは convergence(コンバージェンス)です。

 辞書を引くと次のように説明しています。

 「漸次一点に集合すること、互いに近づき合うこと、集合点」

 「(意見や結果の)一致」

 「〔数学〕収束、収斂(しゅうれん)」

 「〔物理〕(輻射=ふくしゃ=線または粒子線の)収斂」

 「〔気象〕収束(空気が周囲から一地域に集まってくること)」

 英語のconvergence にしても、日本語の「収斂」にしても、日常生活ではなじみの薄い言葉ですが、辞書の訳語を見て想像がつくように、どこかに何かが多方向から集まってくる感じ、を示す単語です。

 経済の世界では「途上国が先進国に国内総生産(GDP)や国民所得で追いつき、みんなの差がなくなっていくこと」ほどの意味で使われています。

 追い上げの先頭に立っているのは中国やインドで、欧米や日本などの先進諸国との差は急速につまってきています。convergence はこの現象を示すキーワードになっているわけです。

 新興国や途上国の追い上げはいま中国やインドだけでなく、世界中で起きています。このため、 great という形容詞を冠して、great convergence(大収斂)と呼ぶケースもあります。

 英語メディアにもこの言葉はよく出てきます。例えば、英紙フィナンシャル・タイムズは今年初めに以下のような見出しの記事を掲載しました。

 In the grip of a great convergence

  大収斂の支配のもとで

 記事の中では「19世紀から20世紀初めにかけては各国の国民所得の差が大きくなっていった。現在はその正反対のことが起きている」として、所得の差が急速に縮まってきていることを指摘しています。そして、こうした「大収斂」の現象こそ「現代の経済に関する大きなストーリー」であるとしています。

 そのうえで「こうした現象は避けがたいことであり、望ましいことでもあるが、一方で非常に大きなグローバルな課題ももたらしている」と強調しています。

 ノーベル経済学賞受賞者のマイケル・スペンス氏も今年出版した著書「The Next Convergence」(次の収斂)で、以下のような問題を論じています。

 ・世界の経済は相互依存と複雑さを増している。これをうまく管理・運営していくことはできるのか

 ・人口が膨張し、所得も増加する一方、資源や環境は有限である。これらの間の関係はどうなるのか

 いずれも簡単に答えの出せる問題ではありません。経済学者の間でも議論百出の状況です。

 「大収斂」がもたらす波紋を国際社会はどのようにコントロールしていくべきなのか。それは21世紀の人類史的な課題と言えるでしょう。

筆者プロフィル

大塚 隆一
1954年生まれ。長野県出身。1981年に読売新聞社に入社し、浦和支局、科学部、ジュネーブ支局、ニューヨーク支局長、アメリカ総局長、国際部長などを経て2009年から編集委員。国際関係や科学技術、IT、環境、核問題などを担当
2011年10月27日  読売新聞)

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