よみうり入試必勝講座 WITH代々木ゼミナール




2009年7月号
問題解答作成のヒント解答例PDF(全ページ)
 
 それでは、今月の小論文講座をはじめることにしましょう。

 先月は「発想」について考えました。課題文を読んで、そこからどのように自分の意見を作っていくか。これは、小論文を書く上でもっとも重要な作業です。そのひとつの手がかりとして、先月は「課題文と対話すること」の大切さについて述べました。

 今月もそれに引き続いて、 課題文の中に自分の意見の手がかりを探る方法を考えてみたいと思います。

文章を読むことの意味

 私たちは文章を読み、そこからさまざまな情報を受けとります。知識や経験や教訓や事実など、いろいろな栄養分をそこから吸収しています。

 でも文章を読むということは、そのような吸収作業を意味しているのでしょうか。私は時々そう考えます。

 たとえば、一冊の本を読む。そこには膨大な情報が含まれています。なるべくていねいに文章をたどることによって、その情報は頭の中をゆっくりと通過していきます。時には深い感動を覚えることもあるし、印象的なフレーズに出会って、そのことばが頭に焼きつけられることもあります。

 ただ、読み終えて一週間もたつと、その大部分は記憶の中から消えてしまうのではないでしょうか。読後のイメージは徐々に輪郭をあいまいにしていき、ぼんやりとした靄のようなものへと変わっていく。極端な場合、その本の内容すらほとんど記憶に残らないということもありえます。

 もしも文章を読むことが単なる情報の吸収作業にすぎないとしたら、これはずいぶん効率の悪い営みといわざるをえません。読んだ後、その痕跡が頭の中にほとんど残っていないとすれば、いったい何のためにこの本を読んだんだろう。そう思う人がいてもおかしくありません。

 でも、私はこう考えるのです。本を読んだり、文章を読んだりすることは単なる吸収作業に終わるものではない、と。では、いったいそれ以外にどういう意味があるのでしょうか。

「フック」とは何か

 ここで考えたいのは「フック」ということです。

 文章を読むと、そのあちこちに読み手はなにかしら「引っかかり」を感じます。「ああ、ほんとうにその通りだな」と共感することもあれば、「これってちょっと変じゃない?」と違和感を感じることもある。「ああ、この表現はすばらしい」と感動することもあるし、「絶対にこれはおかしい」と強い反発を感じることもある。そういうように、文章を読んで、その人がポジティブなものであれ、ネガティブなものであれ、なんらかの「引っかかり」を感じる箇所、それをここでは仮に「フック」と呼んでおきます。

 フックとは「鉤(カギ)」のことです。「先の曲がった金属製の道具」の総称が鉤であり、フックです。たとえば、洋服を掛けるハンガーの先っぽを想像してみてください。他人の書いた文章の中には、そういうハンガーの先っぽのような「フック」があちこちに存在しており、それが読み手の意識に引っかかってくる。文章のどの箇所に引っかかるかは、読み手によってそれぞれ異なります。

「フック」を意識した読み方

 私は本を読むことの意味のひとつは、この「フック」を感じることにあるのではないかと考えます。こういうと、「それって、結局は本から情報を吸収する作業と変わらないじゃないか」と思う人もいるかもしれません。「フックだって、結局は情報のひとつだろう」、そう言われるかもしれない。たしかにそうです。

 でも、文章から受け身で情報を吸収しようとするだけの読み方と、その文章の「フック」を意識した読み方では、読みの基本姿勢が異なります。

 フックは鉤です。他者の表現が鉤となって、読み手の意識に引っかかってくる。その鉤を慎重にたぐり寄せると、自分のこころの中から、その文章を読むまでは気づかなかった意見や見解が引き出されてくる。そういうことがしばしば起こります。フックとはある意味では釣り針のようなものです。文章を読み、こころの中に釣り針を垂らすことによって、そこから自分の意見や見解が釣り上げられる。そういうイメージです。

 だから文章を読むことは単なる吸収作業ではなく、自分の意識を活性化し、眠っていた内面から意見や見解を引き出す能動的な営みなのです。

 今回、読売新聞のある記事を読んで、私はある箇所に強い「フック」を感じました。それを手がかりにして作ったのが、次に掲げる問題です。

 ひょっとしたら、みなさんは私とはぜんぜん違う箇所に「フック」を感じるかもしれません。でも、それでいいんです。それが文章を読むということです。ただし、今回は、私の感じた「フック」にちょっとつきあってみてください。そして、課題文の中に自分なりの「フック」を見つけ、そこから自分の意見を引き出す作業を一緒にやってみましょう。それではまず、次の問題文を読んでください。


問題
次の文章を読んで、傍線部の「正しい怒り方」について、あなたの考えを句読点とも1000字以内で述べなさい。

社会に怒れ 若者たち
 「活動家」養成講座も


 若者の社会参加を進めよう――。労組関係者や学生の間でこんな動きが活発化している。格差や貧困など、若者を取り巻く環境が深刻化するなか、“世にモノ申す若者”を後押しする関係者の動きを追った。(大津和夫)

 ■拡声機で自己紹介
 5月13日夜、都内の公園に20代、30代の若者約50人が集まった。「社会にモノ言うはじめの一歩 活動家一丁あがり!」と銘打った講座の参加者で、この日が1回目。受講生は、会社員、大学生、NPOのボランティアなど様々。拡声機を使って自己紹介をした。
 講座を企画したのは、反貧困ネットワークの湯浅誠事務局長や、首都圏青年ユニオンの河添誠書記長ら労組関係者。若い社会運動家を育てるのが狙いだ。
 受講生には、性差別や労働問題などに関心を持つ人が目立った。なかには、昨年末に派遣会社を解雇された30代男性の姿も。「思いを社会にどう発信すればよいのか探れれば」と話す。
 講座は今後、労働と貧困の現状と歴史を学んだうえで、組織づくりやチラシ作成、記者会見の段取りなどをテーマに、来年3月まで隔週1回のペースで開く予定だ。参加費は1回300円。湯浅事務局長らが講師を務める。
 「派遣村」の企画や、困窮者の相談事業などで、貧困問題にかかわってきた湯浅事務局長は「世の中に疑問を感じても、記者会見や集会の開き方も分からないため、居酒屋で毒づくか、自分を傷つけるしかないのが今の若者の実情では」と分析する。「講座で“正しい怒り方”を学んでもらえれば。ネットワークづくりにも役立ててもらいたい」と話す。

 ■投票率上げたい
 投票を通じた社会参加を呼びかける団体もある。
 都内の学生団体「ivote」(原田謙介代表)で、国会議員事務所のインターンシップなどを通じて知り合った都内の大学生8人が昨年4月に結成した。
 活動の目標は、低迷する20代の投票率を1%上げること。国会議員との交流会を居酒屋などで随時開いている。また、会のホームページにメールアドレスなどを登録すれば、選挙前に投票を促すメールを送るシステムも作った。現在、約300人が登録している。
 総務省によると、07年の参院選挙(選挙区)での20代の投票率は約36%で、60代の約76%と比べ、約40ポイントの開きがある。原田代表は「若者の声が国政に届かない、という危機感がある。シンポジウムなどで投票を呼びかけたい」と話す。
 大阪でも、昨年8月、同様の学生団体「星燎会(せいりょうかい)」(星本栄卓代表)が発足。政治参加を呼びかけている。
 内閣府が今年1月に調査した「社会意識に関する世論調査」によると、「国や社会のことにもっと目を向けるべきだ」と回答した割合は、全体で56・6%。20代は54・7%で、世代間での顕著な差はない。若者政策に詳しい放送大の宮本みち子教授は、「若者が正当にモノを言える環境は不十分。放置すれば治安にも影響しかねず、若者が、学校の運営や自治体の事業に参画できる場づくりを進めるべきだ」と話している。

(読売新聞2009年6月2日(火)夕刊)
 
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