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『ブリューゲルへの旅』 中野孝次著

自然と調和する本来の「生」

 2006年にウィーン美術史美術館を限られた短い時間で回った際、大半を16世紀のネーデルラント(オランダなどの低地)の画家ピーテル・ブリューゲルの絵画の前で過ごした。作品の魅力を学生時代に教えてくれたのが、日本エッセイスト・クラブ賞受賞作のこのエッセーだ。

 「そもそものはじめは紺の絣かな」。約200ページの本書は、詩人で俳人の安東次男の句で始まる。作家でドイツ文学者の著者は1966年、41歳の時に憂鬱(ゆううつ)をもて余したウィーンで、ブリューゲルの「雪中の狩人」(1565年)に出会う。そこに描かれた、厳しい自然と共に生きる狩人の姿に、〈これが、人間の生だ〉と、感銘する。

 働き者だが粗野な農民たちや、人間の業を痛烈に風刺した世界など、客観的かつ示唆に富む画家の描写に、著者は、田舎の日常を嫌悪した若い頃の記憶を旅する。やがて、そんな自然と調和した生き方に人間本来の「生」を見いだす。

 学生時代は絵の面白さに()かれた。しかし、改めて読み直し、幸福な生き方とは何かを、じっくりと考えさせられた。(井)

 単行本は河出書房新社から1976年刊。河出文庫版約7万4000部。2004年刊の文春文庫版は2刷約1万8000部。590円。

2012年2月1日  読売新聞)

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