『ブリューゲルへの旅』 中野孝次著
自然と調和する本来の「生」
2006年にウィーン美術史美術館を限られた短い時間で回った際、大半を16世紀のネーデルラント(オランダなどの低地)の画家ピーテル・ブリューゲルの絵画の前で過ごした。作品の魅力を学生時代に教えてくれたのが、日本エッセイスト・クラブ賞受賞作のこのエッセーだ。
「そもそものはじめは紺の絣かな」。約200ページの本書は、詩人で俳人の安東次男の句で始まる。作家でドイツ文学者の著者は1966年、41歳の時に
働き者だが粗野な農民たちや、人間の業を痛烈に風刺した世界など、客観的かつ示唆に富む画家の描写に、著者は、田舎の日常を嫌悪した若い頃の記憶を旅する。やがて、そんな自然と調和した生き方に人間本来の「生」を見いだす。
学生時代は絵の面白さに
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単行本は河出書房新社から1976年刊。河出文庫版約7万4000部。2004年刊の文春文庫版は2刷約1万8000部。590円。
(2012年2月1日 読売新聞)
- 『歴史を考えるヒント』 網野善彦著 (6月13日)
- 『芽むしり仔撃ち』 大江健三郎著 (6月6日)
- 『一勝九敗』 柳井正著 (5月30日)
- 『チャイコフスキー・コンクール』 中村紘子著 (5月23日)
- 『コリアン世界の旅』 野村進著 (5月11日)
- 『超芸術トマソン』 赤瀬川原平著 (4月25日)
- 『バーボン・ストリート』 沢木耕太郎著 (4月18日)
- 『本当は恐ろしいグリム童話』 桐生操著 (4月13日)
- 『卍(まんじ)』 谷崎潤一郎著 (4月4日)
- 『新明解国語辞典』第七版 山田忠雄ほか編 (3月28日)