『絶望名人カフカの人生論』 頭木弘樹さん
失意の名言に救われる
〈ぼくは、ぼくの知っている最も痩せた男です〉
〈人生に必要な能力を、なにひとつ備えておらず、ただ人間的な弱みしか持っていない〉
〈いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです〉
元気や勇気を与えてくれる名言集は多いが、作家カフカの手紙や日記を抜粋したこの本に登場するのは、気がめいりそうな愚痴や自己嫌悪の言葉ばかり。思わず「誰が買うの?」とツッコミたくなるが、5刷3万部と、じわじわ人気を広げつつある。「『あなたは大丈夫』的な本よりホッとする」「絶望しすぎて笑ってしまう」など、かえって励まされたという感想が次々寄せられている。
「とことん沈むと最後は浮かび上がるというか、『うつむけ』と言われると逆に吹っ切れて上を向けるのでは」。そう語る編訳者自身も、病気で10年以上入退院を繰り返した20〜30歳代の時、カフカに救われた経験がある。「自分以上に絶望している言葉を読むと、まだまだ底はあるぞ、と思って元気が出た」
最初の出会いは中学生の時。手早く読書感想文を書こうと、『変身』の薄い文庫本を選んだが、帰宅しても着替えを忘れるほど夢中になった。その後、全集で手紙や日記を読み、「日常までカフカ的」な面白さに飛び上がった。「不条理の作家と言われると難しく感じるが、小説とは印象が異なる。生きづらいと感じている人は日記を読むといい」
確かに、〈いつだったか足を骨折したことがある。生涯でもっとも美しい体験であった〉なんて言われたら、「カフカに比べれば」と前を向けそうな気がしませんか?(飛鳥新社、1429円・多葉田聡)
◆次回は『エリック・クラプトン』(光文社新書、760円)の大友博さんです
(2012年1月17日 読売新聞)
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