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『天平の甍』 井上靖著

「伝戒」の強い思いが成就

 天平の(いらか)とは、戒律の根本道場として天平時代に建てられた奈良・唐招提寺金堂の鴟尾(しび)を指す。解体修理に伴い屋根から下ろされた創建時のそれを間近で見たことがある。1200年以上風雨に耐えた傷だらけの姿に、戒律伝来の歴史を感じたことを思い出す。

 古代日本の仏教は、戒律を授ける体制が整っていなかった。そのため「伝戒の師」として中国・唐から来日したのが、唐招提寺の開祖、鑒真(がんじん)(鑑真)だった。この有名な史実を題材にした歴史小説が本書である。

 留学僧の栄叡(ようえい)普照(ふしょう)の要請を受けた鑑真は、すでに高僧として知られていたものの、戒律を伝えるために〈生命を惜しむべきではあるまい〉と渡航を決断する。しかし5度失敗し、栄叡は客死。鑑真も失明するが、日本に行くことは諦めなかった。そのおかげで今日の日本仏教がある。

 一方で同じ留学僧でも、修行を断念して還俗(げんぞく)した者もいれば、半生を費やした写経とともに海の藻屑(もくず)と消えた者もいる。人生は厳しく、はかない。それでも強い思いがあれば、何かを成し遂げられることを、この本は教えてくれる。(早)

 単行本は1957年刊。新潮文庫版は64年刊。105刷189万部。400円。

2012年1月25日  読売新聞)

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